【044】曹操が呂布を破って兗州を奪還する

兗州（えんしゅう）で反乱を起こした呂布（りょふ）に手を焼いていた曹操（そうそう）ですが、豫州（よしゅう）（予州（よしゅう））の黄巾賊を平定して体勢を立て直すと、再度兗州（えんしゅう）奪還のために侵攻を開始します。

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曹操の逆襲

画像出典：ChinaStyle.jp

ご確認

この記事は『三国志演義（さんごくしえんぎ）』に基づいてお話ししています。正史（せいし）『三国志（さんごくし）』における「曹操（そうそう）の兗州（えんしゅう）平定」については、こちらをご覧ください。

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前回までのおさらい

曹操（そうそう）が「父・曹嵩（そうすう）の仇討ち」を大義名分にして徐州（じょしゅう）に侵攻すると、その留守を狙って呂布（りょふ）・陳宮（ちんきゅう）らが、曹操（そうそう）の本拠地・兗州（えんしゅう）で反乱を起こします。

この報告を受けた曹操（そうそう）は、劉備（りゅうび）からの和睦（わぼく）の申し出を受け入れて、すぐさま兗州（えんしゅう）に取って返しますが、呂布（りょふ）の武勇と陳宮（ちんきゅう）の知略の前に苦戦を強（し）いられていました。

そんなところへ、にわかに蝗（いなご）が大量発生して作物を食い荒らしたので、関東（かんとう）（広く函谷関（かんこくかん）より東の地域のこと）一帯では穀物1石が銭（ぜに）50貫文（かんもん）にまで上がり、人を殺して食べる者さえ出る有り様となります。

そのため両軍ともに貯（たくわ）えていた兵糧を食べ尽くしてしまい、しばらく兵を引き揚（あ）げて、曹操（そうそう）軍は兗州（えんしゅう）・済陰郡（せいいんぐん）・鄄城県（けんじょうけん）に、呂布（りょふ）軍は食糧の豊かな兗州（えんしゅう）・山陽郡（さんようぐん）に引き揚（あ）げて、しばらく戦いをやめることにしました。

その後、劉備（りゅうび）が徐州（じょしゅう）を手に入れたことを知って大いに腹を立てた曹操（そうそう）は、兗州（えんしゅう）をそのままに徐州（じょしゅう）に攻め込もうとしますが、荀彧（じゅんいく）の進言に従って豫州（よしゅう）（予州（よしゅう））の黄巾賊を討ち、彼らが貯（た）め込んでいた金銀反物（たんもの）や食糧を手に入れました。

許褚の初陣

豫州（よしゅう）（予州（よしゅう））の黄巾賊を討って曹操（そうそう）が凱旋（がいせん）してくると、留守を守っていた曹仁（そうじん）と夏侯惇（かこうとん）が出迎えて、次のように報告します。

「間者（しのびのもの）の報告によると、兗州（えんしゅう）の薛蘭（せつらん）と李封（りほう）の隊は略奪に出ていて城内は空っぽであるとのこと。勝ち誇（ほこ）った我が軍を向ければ、簡単に攻め落とせるでしょう」

これを聞いた曹操（そうそう）が一路兗州（えんしゅう）に向かうと、不意を突かれた薛蘭（せつらん）と李封（りほう）はわずかの兵を率（ひき）いて慌（あわ）てて戦いに出ます。

そして両軍が陣形を整えると、

「私があの2人を討ち取って、初陣（ういじん）の手土産にいたしたく存じます」

と言って許褚（きょちょ）が進み出ました。曹操（そうそう）は喜んでこれを許可します。

許褚（きょちょ）が進み出ると、李封（りほう）は画戟（がげき）の矛（ほこ）を振り回しながら立ち向かいますが、たった2度馬が馳（は）せ違う間に、許褚（きょちょ）に斬って落とされました。

これを見た薛蘭（せつらん）は急いで陣に逃げ帰ろうとしますが、釣（つ）り橋の辺りで李典（りてん）に道をふさがれてしまいます。

薛蘭（せつらん）は城に入ることもできずに、軍を率（ひき）いて兗州（えんしゅう）・山陽郡（さんようぐん）・鉅野県（きょやけん）の方へ逃れましたが、馬を飛ばして追って来た呂虔（りょけん）の一矢に射落とされ、その手勢は散り散りになって逃げ去りました。

曹操が呂布を破る

曹操（そうそう）が兗州（えんしゅう）を取り戻すと、程昱（ていいく）が「この勢いに乗じて兵を進めて、濮陽県（ぼくようけん）を攻め落とすべきです」と進言します。

そこで曹操（そうそう）は、典韋（てんい）と許褚（きょちょ）を先手とし、夏侯惇（かこうとん）と夏侯淵（かこうえん）を左備えに、李典（りてん）と楽進（がくしん）を右備えとして、曹操（そうそう）自身は本隊を率（ひき）い、于禁（うきん）と呂虔（りょけん）を後ろ備えとして進軍を開始しました。

曹操（そうそう）軍が濮陽県（ぼくようけん）に到着すると、呂布（りょふ）は自（みずか）らこれを迎え撃とうとしますが、これを陳宮（ちんきゅう）が諫（いさ）めます。

「今は戦（いくさ）に出るべき時ではございませぬ。大将たちが集まるのを待つのがよろしゅうございます」

ですが呂布（りょふ）は、

「誰が来ようと恐れるものかっ！」

と言って聞き入れず、兵を率（ひき）いて出陣します。

呂布（りょふ）が馬上に矛（ほこ）を横たえ、

「曹操（そうそう）の野郎、よくも我が大将を殺したなっ！」

と大声で罵（ののし）ると、曹操（そうそう）軍からは許褚（きょちょ）が打ちかかりました。ですが呂布（りょふ）と許褚（きょちょ）は20合ほど打ち合っても一向に勝負がつきそうにありません。

するとこれを見た曹操（そうそう）は「呂布（りょふ）には1人で勝つことはできまい」と、典韋（てんい）に許褚（きょちょ）の助太刀を命じ、さらに左からは夏侯惇（かこうとん）と夏侯淵（かこうえん）、右からは李典（りてん）と楽進（がくしん）が一斉に駆け出て、合わせて6人の大将が呂布（りょふ）に打ちかかります。

これにはさすがの呂布（りょふ）もあしらいかねて、馬を返して引き返しました。

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濮陽県の陥落

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田氏の裏切り

濮陽県（ぼくようけん）の城壁の上から戦いの様子を見ていた田氏（でんし）は、呂布（りょふ）が敗走したのを見ると、急に釣（つ）り橋を引き上げさせました。

驚いた呂布（りょふ）は「門を開けろっ！」と叫びますが、田氏（でんし）は「儂（わし）は曹将軍（そうしょうぐん）（曹操（そうそう））に降参したのじゃ」と言って門を開けようとしません。

しかたなく呂布（りょふ）は、軍を率（ひき）いて兗州（えんしゅう）・済陰郡（せいいんぐん）・定陶県（ていとうけん）へと逃（のが）れていきました。

また、濮陽県（ぼくようけん）の城内にいた陳宮（ちんきゅう）は急いで東門を開き、呂布（りょふ）の家族たちを助け出して城を立ち去ります。

曹操（そうそう）は濮陽県（ぼくようけん）に入ると、田氏（でんし）の前（さき）の咎（とが）は問わないことにしました。

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曹操の追撃

「呂布（りょふ）は猛虎のような男です。弱っているこの時を逃（のが）してはなりません」

そこで曹操（そうそう）は劉曄（りゅうよう）らに濮陽県（ぼくようけん）を守らせて、自（みずか）ら軍を率（ひき）いて兗州（えんしゅう）・済陰郡（せいいんぐん）・定陶県（ていとうけん）まで追いかけます。

この時、呂布（りょふ）・張邈（ちょうばく）・張超（ちょうちょう）らはみな城内にいましたが、高順（こうじゅん）・張遼（ちょうりょう）・臧覇（ぞうは）・侯成（こうせい）らは兵糧の徴発に出てまだ帰っていませんでした。

また済陰郡（せいいんぐん）一帯は、ちょうど麦が稔（みの）っている時期でしたので、定陶県（ていとうけん）に着いた曹操（そうそう）軍も城から40里（約17.2km）のところに陣を取り、兵糧に充（あ）てるため兵士らに麦を刈（か）らせます。

このことを知った呂布（りょふ）は、急いで出陣して曹操（そうそう）軍の陣に向かいますが、陣の左手の一帯に林があるのを見て「伏兵がいるかもしれない」と疑って引き返しました。

曹操（そうそう）は「呂布（りょふ）の軍が引き返して行った」という報告を受けると、大将らに向かって言いました。

「呂布（りょふ）は林の中に伏兵がいるのだと疑ったに違いない。あの林に旗を多く立て並べて、奴の目を欺（あざむ）くのだ。

この陣から西の方は、堤防が長く伸びているが今は水がない。その陰に精兵を選んで伏せておけ。

明日は呂布（りょふ）がきっと林を焼き討ちに来るだろう。その時、堤防の陰の兵が出て退路を断ち、奴を捕らえてしまうのだ」

そこで曹操（そうそう）は、陣中には50人の鼓手（こしゅ）だけを残して太鼓を打たせ、村から駆り出してきた民たちに鬨（とき）の声を上げさせて、精兵を堤防の陰に隠れさせました。

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呂布の敗北

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呂布の敗北

すると陳宮（ちんきゅう）は、

「曹操（そうそう）は計略に長（た）けた男です。迂闊（うかつ）なことはなされますな」

と止めましたが、呂布（りょふ）は、

「俺は火攻めで伏兵を破ってやるっ！」

と言って陳宮（ちんきゅう）と高順（こうじゅん）をあとに残して城を守らせることにし、次の日、自（みずか）ら大軍を率（ひき）いて出撃すると、林に向かって四方から火をかけます。

ですが、林の中から逃げ出て来る者はなく、呂布（りょふ）が曹操（そうそう）の陣屋に入り込もうとしたところ、一斉に太鼓が打ち鳴らされました。

そして、

「これはどうしたことか！？」

と驚いているところへ、突然曹操（そうそう）の陣の後ろに1隊の軍勢が現れます。

呂布（りょふ）が馬を走らせて打ちかかろうとしたところ、石火矢が鳴り響いたのを合図に堤防の中の伏兵が一斉に姿を現して、

• 夏侯惇（かこうとん）
• 夏侯淵（かこうえん）
• 許褚（きょちょ）
• 典韋（てんい）
• 李典（りてん）
• 楽進（がくしん）

ら6人の大将が、馬を飛ばして斬りかかってきます。

呂布（りょふ）は、この6人には敵（かな）わないと見て急ぎ身を返して逃げ出しますが、この時、呂布（りょふ）の大将・成廉（せいれん）が楽進（がくしん）の放った矢に射殺され、軍勢の2/3を失ってしまいました。

兗州の奪還

報告を受けた陳宮（ちんきゅう）は「これではこの城も守りきることはできない」と、高順（こうじゅん）と共に呂布（りょふ）の家族を護衛しつつ、定陶県（ていとうけん）を抜け出して落ちのびて行きました。

呂布（りょふ）が敗残兵をまとめていると、次第に大将たちも集まり、陳宮（ちんきゅう）とも合流することができました。

すると呂布（りょふ）は、

「軍勢は少なくても、曹操（そうそう）を撃ち破るくらいは造作もないことだ」

と言って、もう一度曹操（そうそう）に挑（いど）む構えを見せます。

ですが陳宮（ちんきゅう）が、

「今の曹操（そうそう）の軍勢はちょうど勢いが盛んな時。とても戦（いくさ）にはなりません。まずは落ち着き先を探して、それから再起を図（はか）りましょう」

と言って、これ以上戦うことを止めたので呂布（りょふ）も、

「俺はもう1度袁術（えんじゅつ）を頼ろうと思うのだが、どうだろうか？」

と尋（たず）ねると陳宮（ちんきゅう）は、

「先に冀州（きしゅう）（の袁紹（えんしょう））に使いを出して様子を探らせて、それからにいたしましょう」

と言ったので、呂布（りょふ）も陳宮（ちんきゅう）の提案に従うことにしました。

また、山東（さんとう）を平定した曹操（そうそう）がそのことを奏上すると、朝廷は曹操（そうそう）を建徳将軍（けんとくしょうぐん）・費亭侯（ひていこう）に任命しました。

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