江東を平定した孫策に「玉璽の返却」を求められた袁術の反応は…。
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目次
袁術が小沛の劉備を攻める
画像出典:ChinaStyle.jp
前回は、孫策さんが会稽郡を平定したところまででしたよね。
それで目的を達した孫策が、袁術に玉璽の返却を求めたんだっけ?
そうですね。今回はその袁術のお話から始まります。
ご確認
この記事は『三国志演義』に基づいてお話ししています。正史『三国志』における「袁術(紀霊)の劉備討伐」については、こちらをご覧ください。
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袁術の野心
さて、「玉璽の返却」を求める孫策の手紙が袁術に届きました。
この時袁術は、秘かに皇帝になろうとの下心を抱いていたので、孫策には理由をつけて「玉璽を返すことはできない」と返事をしておくと、
- 長史の楊大将
- 都督の張勲、紀霊、橋蕤
- 上将の雷溥(雷薄)、陳蘭
ら30人余りを呼び集めて相談します。
そこで袁術が、
「孫策は儂の兵を借りておきながら、江東を我が物にすると、恩返しどころか『玉璽を返せ』と催促してきおった。以ての外の無礼者じゃ。どうしたものだろうか?」
と尋ねると、これに楊大将が答えて、
「孫策は長江の要害をたのんで兵士は精鋭、食糧も豊かでございますれば、うかつに手は出せませぬ。
それよりはまず、劉備を討伐して『以前、理由もなく攻め込んできた』恨みを晴らし、それから孫策の攻撃をお考えになっても遅くはありませぬ。
私が1つの計略をもって、劉備を擒にしてみせましょう」
と言いました。
ここで出てきた上将の雷溥は、雷薄の誤りだと思われます。
孫策が予想以上に強くなってしまったんだね。
劉備さんって、今どんな感じなんでしたっけ?
呂布に徐州を奪われて、今は小沛にいたんじゃなかったっけ?
ではここで、劉備について少しおさらいしておきましょう。
まず、兗州で曹操に敗れた呂布が、徐州の劉備を頼って落ち延びました。
そして、「呂布と劉備が手を結んだこと」を危険視する曹操に荀彧が提案したのが、劉備に呂布を殺害させる「二虎競食の計」と、勅命により劉備に袁術を攻撃させ、呂布の裏切りを誘う「駆虎呑狼の計」です。
劉備に呂布を殺害させることには失敗したものの、劉備も勅命には逆らえず袁術を攻撃。案の定、呂布は劉備が留守にした徐州を奪ってしまいました。
すると袁術は呂布に使者を送って、
- 兵糧:5万石
- 馬:500頭
- 金銀:1万両
- 反物:1000匹
を贈る約束をして、共に劉備を挟み撃ちにしようと持ちかけます。
ですが、袁術が約束の品をなかなか贈らなかったことから、呂布は再び劉備と手を結んで、劉備を小沛に駐屯させました。
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袁術軍の出陣
さて、本題に戻りましょう。
楊大将の言葉を聞いた袁術は「どのようにしようというのだ?」と、彼の計略の内容を詳しく聞きました。
すると楊大将は、
「今、小沛の劉備を撃ち破るのは簡単ですが、呂布が劉備の加勢をするのではないかとの懸念があります。
そこで、以前贈ると約束した金銀や兵糧・軍馬などをまだ与えていませんので、まず呂布に食糧を送ってやって『兵を動かさない』ように約束させれば、劉備を擒にするのは容易いこと。
その後で呂布を攻めましたら、きっと徐州を手に入れることができるでしょう」
と、その計略を披露します。
袁術は喜んで、早速20万石の粟を用意させ、韓胤に密書を持たせて呂布への使者に立てました。
韓胤から兵糧を受け取った呂布は大いに喜んで、韓胤を手厚くもてなします。
そして、「呂布が喜んでいた」という韓胤の報告を受けた袁術は、いよいよ紀霊を大将、雷薄と陳蘭を副将として、数万の兵を率いて小沛へ向けて出陣させました。
前回の報酬をもらっただけなのにな(笑)
まさに朝三暮四ね。
「遅いぞ」と怒るのも野暮なので、喜んで見せたのかもしれませんよ。
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呂布が劉備を救援する
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呂布の出陣
さて、小沛の劉備のところに「袁術軍が出陣した」という報告が入ります。
すると孫乾は劉備に「呂布に書面をやって、危険を知らせましょう」と言いました。
これに張飛は「あいつが助けに来るものか」と言っていましたが、劉備は孫乾の意見を採用して、呂布に救援を求める書面を送ります。
劉備の書面を読んだ呂布は、
「先日袁術が兵糧を送ってよこしたのは、儂に玄徳(劉備の字)の加勢をさせないためだろう。
今、玄徳(劉備)が助けを求めて来た。玄徳(劉備)が小沛にいても我らの害になることはないが、もし袁術が玄徳(劉備)を滅ぼしたなら、次は北方の秦山の大将たちと連絡して儂を攻めようとするに違いない。
そうなっては安心して眠ることもできない。玄徳(劉備)を助けてやるのが良いだろう」
と言い、軍勢を勢揃いさせて出陣しました。
お〜っ、呂布は袁術の魂胆を見抜いてたねっ!
馬鹿にしてゴメンなさい…。
ちなみに「秦山の大将」というのは、当時徐州の北方にいた独立勢力のことです。
呂布の秘策
さて、袁術軍の紀霊たちは、小沛の東南に到着して陣を構えます。
袁術軍の陣は、昼間は立て並べた旗印の煌めきが山河を覆い、夜は篝火が光り輝いて、太鼓の響きは大地を振るわすほどでした。
この時、小沛(劉備)の城内には わずかに5千余りの兵しかいませんでしたが、劉備は仕方なく城外に出て陣を構え、すぐにでも一戦交えようと血気に逸る張飛を抑え止めていました。
そんなところへ、呂布が兵を率いて県城の西南・1里(約430m)のところに到着し、そこに陣を取ります。
一方、「呂布が劉備を助けにやって来た」と聞いた紀霊は、急ぎ呂布に書面を送って「呂布が約束を破ったこと」を詰りました。
すると、紀霊の書面を読んだ呂布は笑いながら、
「儂に1つ考えがある。袁術も劉備も双方とも、儂を悪く思わないようにしてやろう」
と言い、紀霊と劉備の両方の陣屋に使者を出して、2人を酒宴に招待しました。
え〜と。呂布さんには「劉備さんを助けるけど、袁術さんにも嫌われない方法」があるってこと?
そうですね。
あぁ〜、思い出したっ!
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呂布が轅門に戟を射る
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呂布と劉備の再会
さて、呂布の招待を受けた劉備は、すぐに出掛けようとします。
すると関羽と張飛は、
「兄上(劉備)、お出でなされますな。呂布は二心のある者ですぞっ!」
とこれを止めましたが、劉備は、
「私は呂布に惨い扱いをした覚えはないから、彼(呂布)も私に仇をなすはずはない」
と言い、馬に乗って出発してしまったので、仕方なく関羽と張飛もその後を追いました。
呂布の陣屋に到着すると、呂布は、
「わざわざ御身の危難を救うためにやって来たのだ。御身が後日、世に出ることがあれば、今日の事を忘れないでいてくれよ」
と声を掛け、劉備は呂布にお礼を述べます。
呂布は劉備に席を勧め、関羽と張飛は剣に手を掛けてその後ろに立ちました。
おいおい、呂布は恩着せがましいなぁ(笑)
劉備さんはまだ、ここに紀霊さんも招待されていることを知らないんですよね?
そうですね。劉備はまだ知りません。
紀霊の到着
さて、しばらくすると「紀霊が到着した」との報告が入ります。
劉備は驚いて席を外そうとしましたが、呂布が、
「儂はお2人の話し合いのために、わざわざお招きしたのだ。お疑いなされるな」
と言うので、劉備は彼の底意を計りかね、不安なままそこに居続けました。
紀霊が陣屋に入ってくると、そこに劉備が座っているのを見て大いに驚き、すぐさま引き返そうとしますが、呂布がその腕を掴んで引き戻します。
紀霊「将軍(呂布)は、この紀霊を殺そうとなされるのかっ!」
呂布「そうではない」
紀霊「ならば、大耳児(劉備)を殺すのだな?」
呂布「そうでもない」
紀霊「それでは一体、どうしようというのだっ!?」
呂布「玄徳(劉備)どのと私とは兄弟の間柄だ。それが将軍(紀霊)のために苦しんでいるから、助けに来たまでのこと」
紀霊「それではやはり、この紀霊を殺そうとなされているのではないかっ!」
呂布「そうではない。この呂布は昔から争いが嫌いで、喧嘩の仲裁が好きなのだ。ご両人が和解されるように取り計らおう」
紀霊「どのようにして和解するのか、それをお聞きしたい」
これに呂布は、
「儂の方法というのは、天意に従って決めるのだ」
と言って紀霊を陣幕の中に引っ張り込んで劉備と対面させましたが、2人の疑念はまだ晴れないままでした。
そこで呂布は2人の真ん中に座ると、紀霊を左に、劉備を右に座らせて、酒宴を始めて酒を勧めました。
これ、絶対紀霊の方が恐いよな(笑)
「天意に従って決める」って、どうやって決めるの?
それはこれからお話ししますね。
呂布の提案
さて、数回酒が回ったところで、呂布が口を開きます。
「ご両人、私の顔を立てて、この戦を止めてくださらぬか?」
呂布の言葉に劉備は何も答えませんでしたが、紀霊が、
「私は主君の命によって10万の兵を預かり、劉備を捕らえるために来たのです。途中でやめるわけには参りません」
と言うと、劉備の後ろに控えていた張飛は大いに怒って、
「我ら兵は少なくても、貴様何ぞは小童同然っ!俺の兄貴(劉備)に怪我でもさせたら承知しないぞっ!」
と言って剣を抜いたので、関羽が急いでそれを押し止め、
「まあ待て、呂将軍(呂布)のお考えを承って、それからお互いに陣に帰って斬り合っても遅くはあるまい」
と言いました。
これらの様子を見ていた呂布は、大いに腹を立て、
「儂はご両人に和解を勧めておるのだ。決して斬り合いはさせぬぞっ!」
と言って方天画戟を手に取り上げたので、紀霊も劉備もサッと顔色が青ざめます。
呂布は、
「儂はご両人に戦を止めるように勧めておるのだ。しかし、すべては天命だ」
と言って、側の者に方天画戟を渡して、そこからずっと離れた轅門(陣営の門)のところに突き立てさせておき、それから紀霊と劉備に向かって言いました。
「轅門(陣営の門)はこの軍中から150歩は離れておる。儂がもし1矢で戟の枝に射当てたら、ご両人とも戦を止められよ。
もし当たらなかったその時は、各々帰陣の上、戦の準備をなされるが良い。儂の言葉に背く者には、力を添えて攻撃いたす」
この言葉を聞いた紀霊は、内心、
(150歩の彼方にある戟の枝に、射当てることなどできるものではない。ここは承諾しておいても問題ないだろう)
と思い、即座に承諾します。また言うまでもなく、劉備には断る理由はありません。2人が承諾すると呂布はみんなを座らせて、もう1度1杯の酒を勧めました。
やっぱり呂布さんは、こっそり袁術さんの味方をしてるのっ!?
でも、袁術が劉備を滅ぼせば、次に標的になるのは呂布だよ。
そうだよね。劉備さんを助けることは、呂布さんのためでもあるのに…。
矢が当たれば和睦、外れれば戦。結果はどうなるのでしょうか。
呂布が轅門に戟を射る
さて、酒を飲み干し終わった呂布は、部下に弓矢を取って来るように命じました。
その様子を見た劉備は心の中で、(願わくば呂布が射当てますように…)と天地の神に祈りを捧げます。
呂布はグッと直垂(上着)の袖をまくり上げ、矢をつがえて弓を目一杯引きしぼり、「そりゃっ!」と一声叫ぶと、たった1矢で方天画戟の小枝に射当てました。これを見ていた並み居る将校たちは一斉に歓声を上げて褒めそやします。
呂布は一声大きな声で笑うと、弓を地面に投げ捨て紀霊と劉備の手を取って、
「これこそ『ご両人の合戦をやめさせよう』との上天の思し召しでなくて何であろう」
と言い、兵士に酒を注ぐように命じて、各々大盃1杯を飲み干すように勧めました。
劉備は心の中で(かたじけなし)と唱え、紀霊はしばらく無言のままでしたが、
「将軍(呂布)のお言葉を聞かぬわけには参りませぬが、ただ困ったことには、私は帰って主人(袁術)に何と説明したものかと…」
と問うと呂布は、
「儂が書面をしたためて返事をいたせばよかろう」
と言い、それからまた酒が数回まわったところで、紀霊は書面を受け取って先に帰ります。
その後、
「儂がいなかったなら、危ういところであったな」
と呂布に声をかけられた劉備は厚く謝礼を述べて、関羽・張飛と共に帰途につき、次の日、3万の軍勢はことごとく陣払いをしました。
凄いっ!本当に当てちゃったのっ!?
まあ、『三国志演義』の創作だろうけどね。
でもこのことは、正史『三国志』の本文に記されているんです。
えっ!?
やっぱり呂布さんは、本当に凄かったんですねっ!
父・孫堅の死後、孫策は袁術の下に身を寄せていましたが、独立したいと思っていました。そこで孫策は「叔父の呉璟(呉景)を救うため」という名目で袁術に玉璽を預けて兵を借り、江東の平定に乗り出します。
その後、江東を平定した孫策に「玉璽の返却」を求められた袁術は、秘かに皇帝になろうとの下心を抱いていたので、玉璽を返したくありません。
そこで袁術は、江東を平定して強大になった孫策と敵対することを避け、勢力を拡大するため劉備討伐の兵を挙げますが、呂布の仲裁により和睦が成立して兵を引きました。
次回は、この呂布の動きに対する袁術の反応についてのお話になります。