官職や爵位の証である印綬の種類、綬の色と身分の関係についてまとめています。
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目次
印・璽(いん・じ)
印(いん)とは
官吏が用いる官職名が刻印された金・銀・銅製の印章のことで、公文書や物品を封印するために、封泥の上から捺印されました。
璽(じ)とは
天子(皇帝)が用いる白玉製の印章のこと。玉璽。
天子(皇帝)が用いる璽には、
- 皇帝行璽
- 皇帝之璽
- 皇帝信璽
- 天子行璽
- 天子之璽
- 天子信璽
の6種類があり「天子の六璽」と言います。また、これらは所謂「伝国璽」とは別物です。
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綬(じゅ)
綬(じゅ)とは
印を携帯するための「多彩な絹で織られた組紐」のことで、綬の片方は腰から吊され、印を結んだもう片方は懐に入れました。その色により身につける者の身分を表します。
また、天子(皇帝)も綬を身につけましたが、璽は結びつけず、侍中が璽を持って付き従いました。
綬の構成
- 綬は、印を結ぶ綬の部分と腰につける縌*1の部分、綬と縌*1をつなぐ環鐍で構成され、その種類によって長さや使用される色の数、首*2の数などが異なります。
- 綬の幅は1尺6寸(約37cm)と決まっており、首* 2の数が多いほど細い織り糸で細やかな仕上がりとなり、首* 2の数が少なくなるほど太い織り糸で荒い仕上がりとなります。
画像引用元:林巳奈夫『漢代の文物』
印綬は、任官・封爵を受ける際に朝廷から与えられ、退任する際に返還しました。
また、印綬は公務において使用するだけでなく、露出している綬の色は官吏の身分を示す指標となります。
脚注
*1 綬(じゅ)を帯(おび)につなぐための組紐(くみひも)のこと。
*2 20本を1首(しゅ)とする織(お)り糸の単位。
綬(じゅ)の種類
黄赤綬
天子(皇帝)が身につけた綬。
黄色を基調として、黄色・赤色・縹色(薄い青)・紺色の4色で模様が織り込まれており、長さ2丈9寸(約688cm)、500首(10,000本)の織り糸が使用されています。
太皇太后、皇太后、皇后も、天子(皇帝)と同じ黄赤綬を身につけます。
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赤綬
皇太子と諸侯王に与えられた綬。
赤色を基調として、赤色・黄色・縹色(薄い青)・紺色の4色で模様が織り込まれており、長さ2丈1尺(約488cm)、300首(6,000本)の織り糸が使用されています。
劉昭注には「皇太子と諸侯王は、亀紐(亀を象ったつまみ)の金印に、黒みがかった赤色の綬である」とあります。
また、長公主と天子(皇帝)の貴人で特別な恩恵を加えられた者も、赤綬を与えられました。
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緑綬(綟綬・盭綬)
諸国の貴人と相国に与えられた綬。
緑色を基調として、緑色・紫色・紺色の3色で模様が織り込まれており、長さ2丈1尺(約488cm)、240首(4,800本)の織り糸が使用されています。
秦において相国・丞相は金印紫綬でしたが、高帝(劉邦)が相国を緑綬としました。
緑綬は、綟綬(緑綟綬)*3または盭綬*4とも言います。
脚注
*3 綟(れい)とは草の名前で、染めると緑色や紫色に似てくる。また、何承天(かしょうてん)は「綟(れい)は紫色である」と言う。
*4 盭(れい)とは草の名前で、染めると緑色に似てくる。
紫綬(緺綬)
三公(太尉・司徒・司空)と列侯、将軍に与えられた綬。
紫色を基調として、紫色・白色の2色で模様が織り込まれており、長さ1丈7尺(約392cm)、180首(3,600本)の織り糸が使用されています。
公主と封君も紫綬を与えられました。紫綬は緺綬とも言い、緺の色は青紫色です。
また、紫綬より上位の綬には、縌*1と綬の間に玉製の環鐍(帯留め)を使うことが許されました。
青綬
九卿と中二千石、二千石の官吏に与えられた綬。
青色を基調として、青色・白色・紅色の3色で模様が織り込まれており、長さ1丈7尺(約392cm)、120首(2,400本)の織り糸が使用されています。
例外として、六百石の尚書僕射は銅印青綬を帯びました。
また、青綬より上位の綬の縌*1は、長さ3尺2寸(約74cm)、綬と同じ色、首は綬の半分を使用します。
脚注
*1 綬(じゅ)を帯(おび)につなぐための組紐(くみひも)のこと。
黒綬(墨綬)
千石と六百石の官吏に与えられた綬。
青色を基調として、青色・赤色・紺色の3色で模様が織り込まれており、長さ1丈6尺(約369cm)、80首(1,600本)の織り糸が使用されています。
例外として、四百石と三百石の県長も黒綬を与えられました。
黄綬
四百石と三百石、二百石の官吏に与えられた綬。
青色を基調として、黄色1色で模様が織り込まれており、長さ1丈5尺(約346cm)、60首(1,200本)の織り糸が使用されています。
黒綬(墨綬)より下位の綬の縌*1は、長さ3尺(約69cm)、綬と同じ色、首は綬の半分を使用します。
脚注
*1 綬(じゅ)を帯(おび)につなぐための組紐(くみひも)のこと。
青紺綬
百石の官吏に与えられた綬。
ぐねぐねとよじり合わせた青紺色1色の綬で、長さは1丈2尺(約276cm)。
色と身分
綬の色は、身分が高い方から、
- 黄赤(橙)
- 赤色
- 緑色(綟・盭)
- 紫色(緺)
- 青色
- 黒色(墨)
- 黄色
- 青紺
となります。
この他に、車蓋(馬車の覆い)や服の色なども、身分によって使用できる色が決められていましたが、必ずしも綬の色による身分の順と一致するものではありませんでした。
このことから、当時すべてに共通する尊い色や卑しい色があったわけではないことが分かります。
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官爵と印綬の一覧表
以上は『続漢書』輿服志を基に作成しています。
一方で『東観漢記』には『続漢書』輿服志と一部異なる記述がありますので、『東観漢記』を基にした一覧表も合わせてご紹介します。
『続漢書』輿服志
官爵 | 印 | 綬 | |||
---|---|---|---|---|---|
名称 | 色数 | 長さ(約) | 首 | ||
天子 | 玉璽 | 黄赤綬 | 4 | 688cm | 500 |
太皇太后 | |||||
皇太后 | |||||
皇后 | |||||
皇太子 | 金印 | 赤綬 | 4 | 488cm | 300 |
諸侯王 | |||||
貴人 | 緑綬 (綟綬) (盭綬) |
3 | 240 | ||
相国 | |||||
三公 | 紫綬 (緺綬) |
2 | 392cm | 180 | |
列侯 | |||||
将軍 | |||||
九卿 | 銀印 | 青綬 | 3 | 120 | |
中二千石 | |||||
二千石 | |||||
比二千石 | |||||
千石 | 銅印 | 黒綬 (墨綬) |
3 | 369cm | 80 |
比千石 | |||||
六百石 | |||||
比六百石 | |||||
四百石 | 黄綬 | 1 | 346cm | 60 | |
比四百石 | |||||
三百石 | |||||
比三百石 | |||||
二百石 | |||||
比二百石 | |||||
百石 | 青紺綬 | 1 | 276cm | – |
例外
- 六百石の尚書僕射は銅印青綬。
- 四百石と三百石の県長は銅印黒綬。
東観漢記
官爵 | 印 | 綬 |
---|---|---|
天子 | 玉璽 | 黄赤綬 |
諸侯王 | 金璽 | 綟綬 |
三公 | 金印 | 紫綬 |
列侯 | ||
将軍 | ||
九卿 | 銀印 | 青綬 |
中二千石 | ||
二千石 | ||
比二千石 | ||
千石 | 銅印 | 黒綬 |
比千石 | ||
六百石 | ||
比六百石 | ||
四百石 | ||
比四百石 | ||
三百石 | 黄綬 | |
比三百石 | ||
二百石 | ||
比二百石 |
例外
- 県令・県長は銅印黄綬。