曹操による一世一代の董卓暗殺は失敗に終わってしまいました。危機一髪のところで洛陽から逃亡した曹操の、その後を追っていきましょう。
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目次
中牟県令・陳宮
前回は董卓さんの暗殺を引き受けた曹操さんが、暗殺に失敗して洛陽から逃げ出したところまででしたよね。
大きなこと言って引き受けたのに大失敗っ!(笑)
そうですね!
今回は、その逃亡する曹操についてお話しします。
ご確認
この記事は『三国志演義』に基づいてお話ししています。正史『三国志』における曹操の逃亡劇については、こちらをご覧ください。
捕らえられた曹操
間一髪で洛陽を脱出した曹操は、故郷の豫州・沛国・譙県に向かっていました。
豫州・沛国・譙県
あれ?
この時代、曹操さんの家族や親戚も罪に問われるんですよね。
そうですね。
当時、罪を犯した者の親族は連帯責任として罰せられました。
とりあえず故郷に帰って、家族も含めこれからのことを考えないとな。
さて、故郷の譙県に向かう曹操ですが、途中中牟県というところで関所の兵士に見つかって、捕らえられてしまいました。
「私は旅の商人で、姓は皇甫と申します」
県令の前に引き出された曹操は、偽名を名乗って人違いだと主張します。
県令は曹操の顔をしばらくじっと見つめていましたが、やがてこう口を開きました。
「以前洛陽に行った時、私は曹操を見たことがある。見間違うはずはない、お前は曹操だっ!」
そう言うと県令は、ひとまず曹操を牢に入れておき、翌日洛陽に護送して褒美を受け取ることにしました。
こういう時、有名人は不利だな(笑)
笑ってる場合じゃないでしょ、絶体絶命じゃないっ!
陳宮、曹操の仲間に加わる
夜も更けた頃、先程の県令が曹操がいる牢にやってきました。
「お前は相国(董卓)に重く用いられていたはずなのに、なぜこのようなことをしたのだ?」
最初は県令の質問に答えようとしなかった曹操ですが、県令があまりにも熱心に尋ねるので、これまでの経緯を語って聞かせました。
「もし故郷へたどり着いたならば、天子の詔書をもって諸侯を招き、兵を起こして董卓を討つつもりだったのだ!」
曹操のこの言葉を聞いた県令は、自ら曹操の縛めを解いて言いました。
「私は姓は陳、名は宮、字は公台と申します。あなたの忠義のお心に感じ入りました!官職を棄てて、あなたと行動を共にしたいと思います」
曹操は大変喜んで、その夜のうちに旅支度を調えて陳宮と共に出発しました。
曹操の危機管理能力半端ないって!(笑)
本当っ!絶体絶命のピンチを切り抜けちゃった…。
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呂伯奢一家惨殺事件
成皋県の呂伯奢
3日ほど旅を続けて成皋県の近くまで来ると、曹操は陳宮に言いました。
「この辺りに、父の義兄弟の呂伯奢という者がいる。今夜は彼のところに泊めてもらうことにしよう」
2人が呂伯奢の屋敷まで来ると、呂伯奢は大変心配した様子で言いました。
「朝廷からお前を捕らえよと厳しいお触れが出ているぞ。お前のお父上もすでに陳留に避難なされた」
呂伯奢は「今夜は泊まっていくがよい」と言って2人を奥の座敷に通すと、もてなそうにも良い酒がないからと、酒を買いに屋敷を出ていきました。
呂伯奢、ええ人やぁ〜!
とりあえず、曹操のお父さんも無事だったんだね。
うんうん。曹操さんたちも、今日はゆっくり眠れるね。
そのはずだったんですけどね…。
えっ!?どういうことですか?
曹操のあやまち
曹操と陳宮が呂伯奢の帰りを待っていると、屋敷の裏からなにやら刃物を研ぐような音が聞こえてきます。
「もしや我々を殺そうというのではないか?」
不審に思った2人がそっと足音を忍ばせて音のする方へと近づいてみると、今度は呂伯奢の家の者が話す声が聞こえてきました。
(縛って殺したらどうだ?)
壁越しにこの会話を聞いた時、曹操と陳宮の疑いは確信に変わりました。
2人は静かに剣を抜いたかと思うと、素早く斬り込んでそこにいた8人、男女の別なく全員斬り殺してしまいました。
またもや曹操の危機管理能力が発揮されたね。
まさか呂伯奢さんが裏切っていたとは…。
マリコさん、お話にはまだ続きがありますよ。
2人がふと台所に目を落とすと、そこには縛り上げられて今にも殺すばかりになっている1匹の豚が置いてあるではありませんか。
つまり2人は「豚を殺す相談」を「自分たちを殺す相談」だと勘違いしていたのです。
「孟徳*1どの、どうやら私たちは罪のない人たちを殺してしまったようです…。」
とは言えこうしているうちにも呂伯奢が戻ってくるかも知れず、2人は急いで馬に乗り出発しました。
あちゃ〜っ!勘違いだったのかぁ。
どうするのこれ?
このまま逃げちゃうの!?
脚注
*1 曹操の字。
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冷酷な曹操と戸惑う陳宮
曹操、呂伯奢を殺害する
曹操と陳宮が馬を飛ばして先を急いでいると、前方に酒や野菜をロバに乗せた呂伯奢がやって来るのが見えました。
呂伯奢は曹操たちに気づくと、
「どうして行ってしまわれる?家の者に豚をさばいてもてなすように命じておいた。一晩泊まっていかれよ」
と、2人を引き留めようとします。
「私は罪人ですので、ゆっくりしてはいられません」
そう言って行き過ぎようとした曹操ですが、ふと馬を止め、馬を降りて呂伯奢の方へ歩み寄りました。
曹操は不意に呂伯奢の後ろを指さして「あれは何者だっ!」と叫ぶと、そちらへ振り返った呂伯奢の隙をつき、一太刀に斬り殺してしまいました。
えぇ〜っ!何でっ!?
当然だね。
何でよっ!?
あのまま呂伯奢が家に帰ったら、家族が全員殺されてるんだよ?いくら呂伯奢が良い人でも、曹操を許さないでしょ?
うん…。多分怒ると思う…。
怒った呂伯奢が通報して、追っ手を差し向けられたらかなわない。だから曹操は口封じをしたんですね。
我人に背くとも人我に背かせじ
マリコさんと同じように、この曹操の行いを許せない人がいました。陳宮です。
「呂伯奢の家族のことは仕方がなかった…。だがっ!呂伯奢まで殺してしまうとはどういうことだっ!」
曹操は陳宮に呂伯奢を生かしておくことの危険性を説くと、
「もし私が天下の人の義に背くとも、決して天下の人に私を背かせたりはしないのだっ!」
と言い放ちました。これを聞いた陳宮は返す言葉もなく黙り込んでしまいました。
随分自分勝手な言い草ね…。
この時代、この位冷酷じゃないと生き残れないんだよ。
そうですね。
この場面は『三国志演義』の中でも、曹操の冷酷さを強烈に印象づける名場面の1つとなっています。
曹操さんって良い人だと思ってたのに…。
タカオくんの言う通り、綺麗事だけでは乱世を生き抜いていけないのです。では、お話しを続けましょう。
その夜、2人は1軒の宿屋を見つけて門を叩くと、疲れていたのか曹操はすぐに眠ってしまいました。
その曹操の寝顔を見つめながら、陳宮は1人悩み続けます。
(私は曹操を英雄だと思えばこそ、官職を棄ててここまでついてきた。それが、かくも残忍で無情な男だったとは…。)
陳宮は、曹操をこのまま生かしておいてはきっと世の災いになるに違いない。ここで殺しておくのが天下のためだ。という結論に至り、曹操を殺すため剣に手をかけました。
はたして曹操の命はどうなるのでしょうか…?
というところで、『三国志演義』の第4回が終わります。
えぇ〜っ!ここで終わりっ!?
なるほど。
まず曹操は死なないと思うけど、どうやって切り抜けるのかな?
楽しみですねっ!
中牟県で捕らえられてしまった曹操ですが、曹操の志に共感した県令・陳宮は曹操を釈放し、官職を棄てて行動を共にします。
その後、成皋県まで来た曹操たちは、父の義兄弟である呂伯奢に一夜の宿を求めました。ですが、呂伯奢の留守中に怪しい会話を聞きつけた2人は、暗殺を恐れて呂伯奢の一家を殺害してしまいます。
誤解に気づいた2人は急いで呂伯奢の屋敷から逃亡。運悪く呂伯奢と鉢合わせた曹操は、証拠隠滅のために罪のない呂伯奢まで殺害してしまったのです。
そして、あまりにも冷酷な曹操に疑念を抱いた陳宮は、曹操の寝顔に剣を向けました。
次回は、ついに曹操が軍勢を集めて旗揚げをします。