楊彪の計略に従って李傕と郭汜を争わせることに成功した献帝ですが、李傕に捕らえられ、自由を奪われてしまいました。そんな中、李傕と郭汜の争いは次第に激しさを増していきます。
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目次
郭汜が公卿たちを捕虜にする
画像出典:ChinaStyle.jp
前回は、楊彪の計略にかかった李傕と郭汜が争いを始めたところまででしたよね。
でも献帝さんが李傕さんに連れ去られちゃった…。
うん。これは想定外だったね。
そうですね。今回は、朝廷の李傕と郭汜のお話です。
ご確認
この記事は『三国志演義』に基づいてお話ししています。正史『三国志』における「李傕と郭汜の争い」については、こちらをご覧ください。
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李傕と郭汜の一騎打ち
では、今回のお話を始めましょう。
李傕に連れ去られ悲しみに暮れている献帝のところに、
「一手の軍勢が槍刀を日に輝かせ、鐘や太鼓を打ち鳴らして、陛下を救い出しに参りました」
という報告が入りました。そこで「誰であるか?」と調べさせてみると、他でもない郭汜とのことでした。
そして、塢の外でこれを迎え撃った李傕が、郭汜と罵り合いを繰り広げます。
李傕「儂は貴様によくしてやったつもりだ。それなのになぜ、儂に害を加えようとしたのだっ!?」
郭汜「貴様は謀反人に違いない。生かしてはおけぬ」
李傕「儂は今、天子(献帝)さまをお守りしているのだぞ、なんで謀反人なものか」
郭汜「貴様のやり方は 手込め というものだ。お守りしているとは言えぬ」
李傕「つべこべ言うな。兵抜きで、貴様と2人きりで勝負をつけよう。勝った方が天子(献帝)さまを連れて行くのだぞ」
こうして一騎打ちを始めること数十合、まだ勝負のつかないうちに、2人の間に楊彪が割っては入り、
「将軍たち、お控えくだされ、このおやじ(楊彪)が歴々の衆共々、お2人の和睦をお計らいしたいのじゃ」
と叫んだので、李傕と郭汜はそれぞれ陣に引き揚げました。
争わせたり和睦させようとしたり、何がしたいのか分からないな(笑)
まずは献帝さんの安全を優先させたいんじゃないのかな?
一騎打ちであっさり決着が着いてしまうより、争わせ続けて2人を弱体化させることが重要ですからね。
なるほど…。
郭汜が公卿を捕虜にする
さて楊彪と朱儁は、李傕と郭汜を和睦させるために動き始めます。
楊彪と朱儁は朝廷の役人60人余りを集め、まず郭汜の陣屋に出掛けて和睦を勧めましたが、郭汜は役人たちを残らず捕らえて牢に入れてしまいました。
驚いた役人たちが口々に、
「私たちは好意で来たのに、なぜこんな目に遭わせるのだ!?」
と問うと郭汜は、
「李傕が天子(献帝)を手込めにしておくなら、儂の方でもあなたがた公卿たちを虜(捕虜)にしたとしても問題なかろう」
と答えました。
そしてこれを聞いた楊彪が、
「片一方は、天子(献帝)を手込めにし、また一方は公卿たちを虜(捕虜)にして、一体何になるというのだ」
と言うと郭汜は大いに怒り、すぐさま鍵を抜いて楊彪を殺そうとします。
これを見た中郎将の楊密が必死でなだめたので、郭汜はようやく楊彪と朱儁を釈放しましたが、他の者はみな引き続き陣中に押し留めておきました。
楊彪は朱儁に向かって、
「国家の重臣でありながら主君をお救いすることもできないのでは、天地の間に命を受けた甲斐がない」
と言い、涙を流して抱き合うと気を失って地面に倒れ込み、また朱儁は、家に帰ると病気になってそのまま亡くなってしまいました。
これより後、李傕と郭汜は50日の間毎日合戦を交え、無数の者たちが討ち死にしました。
和睦できなかっただけじゃなくて、みんな捕らえられちゃったのね…。
最悪だな…。朱儁は「憤死」ってやつか?(笑)
元々争わせて曹操を頼る予定でしたが、外部と連絡が取れませんからね。
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和睦の使者・皇甫酈
画像出典:ChinaStyle.jp
賈詡の忠義
さてこの頃、李傕の陣中で動きがあります。
李傕は日頃から邪教を深く信じており、いつも陣中に巫女を呼んで太鼓を打ち、神降ろしの舞いを舞わせていたので、賈詡はたびたびこれを諫めましたが、聞き入れられませんでした。
このことを知った侍中の楊琦は、秘かに献帝に申し上げます。
「私の見ますところ、賈詡は李傕の腹心と恃まれておりますが、未だ主君(献帝)を忘れたわけではございません。
陛下(献帝)、彼にお計りなされるがよろしいでしょう」
ちょうどこの時、賈詡がやって来たので献帝は側の者を退けて、涙を流して言いました。
「其方(賈詡)は漢朝の行く末を哀れと思い、朕(献帝)の命を助けてくれるわけにはいくまいか」
すると賈詡は地べたに平伏し、
「それは願うところでございます。しばらく何も仰せられますな。私に考えがございます」
と言ったので、献帝は涙を抑えて感謝しました。
ここで賈詡かっ!
賈詡さんが味方についてくれたら安心ですねっ!
賈詡は献帝への忠義を忘れていなかったんですね。
和睦の使者・皇甫酈
賈詡が退出すると、李傕が面会にやって来ます。
剣を帯びたまま入って来た李傕は、それを見て真っ青になってる献帝に、
「郭汜は臣たる道をわきまえていないので、大臣たちを監禁し、陛下(献帝)までも押し込めようとしました。私がおらねば危ういところでございました」
と言い、これに献帝が手を組み合わせて謝礼を述べたので、李傕は満足して退出しました。
李傕が退出すると、皇甫酈がやって来ます。
すると献帝は、彼が弁舌が巧みで李傕とは同郷であることから、今度は皇甫酈に李傕・郭汜の和睦の使者に立つように命じました。
皇甫酈さんって、初めて出てきましたよね。
はい。皇甫嵩の甥にあたる人物です。
これが「賈詡の考え」ってやつ?
どうでしょうねぇ。もう少し様子を見てみましょう。
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賈詡の秘策
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皇甫酈の逃亡
皇甫酈は、まず郭汜の陣屋に向かいます。
皇甫酈が弁舌巧みに李傕との和睦を勧めると郭汜は、
「もし李傕が天子(献帝)を開放したら、儂もすぐに大臣たちを許すことにしよう」
と答えました。
郭汜から和睦の言質(約束の言葉)を得た皇甫酈は、その足ですぐさま李傕の元に向かい、彼と面会して言いました。
「天子(献帝)は私が西涼の出身で貴殿と同郷であることから、特に私にお2人の和睦を計らうように命ぜられました。
すでに郭汜は勅命に従うことに同意しておりますが、貴殿はいかがお考えでございましょうか」
すると李傕は、
「儂は呂布を撃ち破った大功があり、政治を預かって4年になるが、その功績は比類ないものだ。
郭亜多(郭汜)めが馬泥棒の成り上がり者であることは世間に知らぬ者はいない。それが大臣を押し込めたりしおって、儂に手向かいするのだから、どうあっても打ち殺そうと誓いを立てたのだ。
まあ見てくれ、儂の軍略と兵隊の数は、郭亜多(郭汜)めよりずっと勝っておるとは思われませぬか」
と言い、あくまでも郭汜との和睦に応じる様子はないようです。
そこで皇甫酈はまた言いました。
「いやいやそうではありませぬ。
昔、有窮の君・后羿は、弓術が得意なことを恃みに、民の憂いを思わずして滅亡いたしました。近くは董太師(董卓)の強力さは親しく見られた通りです。
呂布はご恩を受けながら野心を起こしたため、董太師(董卓)はわずかの間に首を都の城門に晒しものにされる目に遭われました。強大な軍隊を持っていたとしても、安心できるものではありません。
将軍(李傕)は上将の身となって黄鉞の まさかり を取り、節の しるし をつけておられ、子孫一族までもみな高位大官に就いて、国家の恩義はまことに広大であります。
郭亜多(郭汜)は大臣たちを捕らえていますが、天子(献帝)を押し込めた将軍(李傕)とでは、どちらが罪が軽いとも言えません」
これを聞いた李傕は大いに腹を立てて剣を抜き、
「天子(献帝)は儂に恥をかかせるために貴様(皇甫酈)を使いに立てたのかっ!貴様の首から先に斬ってくれるぞっ!」
と怒鳴りつけました。
これを見た騎都尉の楊奉は、
「今勅使(皇甫酈)を殺しては、郭汜に出兵の口実を与えることになり、諸侯もみな彼を助けるようになりましょう」
と言い、賈詡も必死になだめたので、李傕もようやく剣を収めます。
そこで賈詡はすかさず皇甫酈を外へ連れ出しますが、皇甫酈はそれでも、
「李傕は勅命を奉じないで、君(献帝)を殺して自分が天子になろうとそておるぞっ!」
と大声で叫んだので、侍中の胡邈が、
「そんなことを言うんじゃない。貴殿の不利益になるだけではないか」
と急いで止めに入りますが、皇甫酈は、
「胡敬才(敬才は胡邈の字)、お前も朝廷の臣下ならば、どうして逆賊の肩を持つのだ!?
『君辱めらるれば臣死す』と言う。儂は李傕に殺されても本望だっ!」
と胡邈を叱りつけました。
このことを聞いた献帝は、急いで皇甫酈を西涼に帰らせるように命令を出しました。
皇甫酈、話長いよ(笑)
つまり皇甫酈さんは「李傕さんも郭汜さんも、どっちも悪い」って言って、李傕さんを怒らせちゃったってことでしょ?
それで西涼に逃げたのか。これで「弁舌が巧み」って(笑)
「賈詡の考え」が気になるところですね。
賈詡の秘策
さて次は、西涼に逃亡した皇甫酈のお話になります。
西涼に逃亡した皇甫酈は、
「李傕は謀反人だ。つまり、つき従う者は逆賊の仲間となる。後の祟りが恐ろしい」
と言って回ります。
李傕の軍隊の多くは西涼人と羌族でしたが、皇甫酈のこの言葉によって西涼人の心は次第に李傕から離れ始めました。
この事を知った李傕は大いに怒り、虎賁(近衛兵)の王昌を派遣して皇甫酈を追わせます。
ですが、王昌は皇甫酈が忠義な人物であることをよく知っていたため、彼を追う振りだけして李傕には、
「皇甫酈はどこへ行ったのか分かりませんでした」
とだけ報告しました。
一方、賈詡の方では秘かに羌族に人を遣って、
「天子(献帝)はお前たちの忠義と長い合戦の苦労をよくご存知で、お前たちに郷里に帰るようにとの秘密の詔を出された。追って十分な恩賞があるだろう」
と告げさせると、羌族たちは元々李傕が何も恩賞をくれないことを不満に思っていた矢先だったので、賈詡の言葉通り、みな兵を引き連れて立ち去って行きました。
おぉ〜、これが賈詡の計画かっ!李傕がかなり弱体化したな。
ちなみに羌族というのは、中国の北西部に住んだチベット系の遊牧民族のことです。
李傕さんが弱くなったってことは、和睦に応じざるを得ないってことですよねっ!
そうですね。ですが賈詡の計画は、まだ始まったばかりです。
李傕を大司馬に任命する
さらに賈詡は、秘かに次のように献帝に上奏します。
「李傕は非常に欲深く知恵の浅い男です。今、兵が離散して怖じ気づいているはずですから、高い位を授けてやれば、きっと感謝するでしょう」
そこで献帝が李傕を大司馬に任命すると、李傕は大変喜んで、
「これは巫女が神降ろしをして祈祷してくれたお陰だっ!」
と、巫女に褒美を出しましたが、配下の大将たちには恩賞を出しませんでした。
大司馬とは、三公の上位に位置する軍事最高の官職です。
え〜っ!すごいっ!
大司馬に任命されたのが巫女のお陰ってっ!(笑)
せっかく李傕さんを弱体化させたのに、また偉くさせちゃったの?
まあ、賈詡のお手並みを拝見しようよ。
そうですねっ!
李傕に捕らえられ、李傕と郭汜の争いが激化する中、献帝は心を悩ませていた。
そんな時、李傕配下の賈詡が、まだ天子(献帝)への忠誠心を失っていないことを知り、彼に協力を求めます。
そして、賈詡の計略によって李傕の戦力を削ぐことに成功しました。
次回も、李傕と郭汜の争いのお話が続きます。