後漢ごかん・三国時代の刺史しし州刺史しゅうしし)とぼく州牧しゅうぼく)の職務と属官・属吏についてまとめています。

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刺史(州刺史・部刺史)

職務

司隷校尉部しれいこういぶ司隷しれい)を除く12の州にそれぞれ置かれた州の監察官。

毎年8月に管轄する州内の郡国を巡行じゅんこうして統治の実態を調査し、官吏の能力に応じて昇進・降格させ、冤罪えんざいが疑われる裁判をやり直します。

前漢ぜんかんでは1年の終わりに長安ちょうあんに奏上に行きましたが、後漢ごかんになると上計吏じょうけいりの報告だけになりました。


蔡質さいしつ漢儀かんぎ漢官典職儀式選用かんかんてんしょくぎしきせんよう)が引く旧典きゅうてんには、

刺史しし)の刺史しし州刺史しゅうしし)の刺史しし州刺史しゅうしし巡行じゅんこうにあたり、次の6つの条文にもとづいて事柄を問いただし、条文に当てはまらない事柄は問いただしても取り締まらなかった」

とあります。


  1. 強大な豪族が田地や住宅を規定以上に広げ、その強さにより弱い者を侵犯し、その多さにより少ない者をしいたげること。
  2. 二千石(太守たいしゅ国相こくしょう)がみことのりそむいて、自分の利益のために民から財物をおかし取り、租税を取り立てるにあたって悪事を行うこと。
  3. 二千石(太守たいしゅ国相こくしょう)が罪をさばくにあたり公平さをき、政治を乱して争い、民ににくまれ、災異や流言飛語が蔓延まんえんすること。
  4. 二千石(太守たいしゅ国相こくしょう)が不公平な人事を行い、頑迷がんめいな者を寵愛ちょうあいして厚遇こうぐうし、賢者の昇進の道をふさぐこと。
  5. 二千石(太守たいしゅ国相こくしょう)の子弟が権勢を後ろ盾として、監察対象者に特別なはからいを頼み込むこと。
  6. 二千石(太守たいしゅ国相こくしょう)が下の者と徒党を組み、強大な豪族におもねり、賄賂わいろを行って政令をそこなうこと。
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後漢・三国時代の地方官の支配構造

基本情報

詳細が不明の箇所は空白にしています。

  後漢ごかん しょく
定員 各1人 各1人 各1人 各1人
秩石
品秩
六百石 五品    
印綬 銅印黒綬      

刺史の変遷

前漢ぜんかん

  • しんが置いた監御史かんぎょしを廃止する。
  • 分担して諸郡を監察する丞相史じょうしょうしを置き、各州に常設の官がなくなる。
  • 武帝ぶていが13州に初めて官秩かんちつが六百石の刺史ししを設置する。
  • 成帝せいてい刺史ししを改めてぼく州牧しゅうぼく)を設置し、官秩かんちつを二千石とする。

後漢ごかん

  • 建武けんぶ18年(42年)、光武帝こうぶていぼく州牧しゅうぼく)を改めて、司隷校尉部しれいこういぶ司隷しれい)を除く12の州に刺史ししを設置する。
  • 建安けんあん18年(213年)3月、献帝けんていが州を統廃合して禹貢うこうにある九州(9州)を復活させる。

刺史(州刺史・部刺史)の属官

以下は続漢書ぞくかんじょ百官志ひゃっかんしと「ちくま学芸文庫『正史 三国志8』三国官職表」を基に作成しています。【】内は【定員・官秩かんちつ・品秩】で、[]内はそれぞれの王朝での情報になります。

続漢書ぞくかんじょ百官志ひゃっかんし三国官職表さんごくかんしょくひょうで情報が違う場合は、()内に三国官職表さんごくかんしょくひょうの情報を記載します。


続漢書ぞくかんじょ百官志ひゃっかんしには、

刺史しし)の刺史しし州刺史しゅうしし)の刺史しし州刺史しゅうししが置かれる州には従事使じゅうじし假佐かさ仮佐かさ)が置かれた。その定員と職務は司隷校尉しれいこういとほぼ同じであるが、都官従事とかんじゅうじはなく、功曹従事こうそうじゅうじ治中従事ちちゅうじゅうじと呼んだ」

とあります。

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【後漢・三国時代の官職23】司隷校尉(しれいこうい)


以下は上記を反映させたもので、これ以外にも州ごとの実態に応じて独自の属官が置かれていました。

従事使じゅうじし

【各1名・-・-】

後漢ごかん=○・=?・しょく=?・=×]

治中従事(ちちゅうじゅうじ)

州の官吏の選任、その他の事柄を取り仕切ります。

司隷校尉しれいこういにおける功曹従事こうそうじゅうじにあたります。

別駕従事(べつがじゅうじ)

刺史しし)の刺史しし州刺史しゅうしし)の刺史しし州刺史しゅうししが管轄する州内を巡察する際に車駕しゃがを先導し、様々な事柄を記録します。

簿曹従事(ぼそうじゅうじ)

州が所蔵する金銭と穀物の出納帳すいとうちょうを作成します。

兵曹従事(へいそうじゅうじ)

戦争が起きた時に設置され、軍事を取り仕切ります。


假佐かさ仮佐かさ

【25名・-・-】

假佐(仮佐)の内訳
主簿しゅぼ

【-・-・-】

後漢ごかん=○・=○・しょく=?・=×]


閤下こうか(属吏の執務する区画)に関する事柄を帳簿に記録し、文書を刺史ししに伝達します。

門亭長もんていちょう

【-・-・-】

後漢ごかん=○・=?・しょく=?・=×]


州内の取り締まりを行います。

門功曹書佐もんこうそうしょさ

【-・-・-】

後漢ごかん=○・=?・しょく=?・=×]


刺史ししの属官の選任を取り仕切ります。

孝経師こうきょうし

【-・-・-】

後漢ごかん=○・=?・しょく=?・=×]


試経しけいの試験を監督します。

月令師げつれいし

【-・-・-】

後漢ごかん=○・=?・しょく=?・=×]


気候の状態と祭祀さいしに関する事柄を取り仕切ります。


律令師りつれいし

【-・-・-】

後漢ごかん=○・=?・しょく=?・=×]


法律に関する事柄を取り仕切ります。

簿曹書佐ぼそうしょさ

【-・-・-】

後漢ごかん=○・=?・しょく=?・=×]


州が所蔵する金銭と穀物の出納帳すいとうちょうを作成します。

都官書佐とかんしょさ

【-・-・-】

後漢ごかん=○・=?・しょく=?・=×]


百官のうち法に違反した者を調査して摘発します。


郡国ごとの属官

以下は州内の郡国ごとに置かれた刺史しし)の刺史しし州刺史しゅうしし)の刺史しし州刺史しゅうししの属官になります。

部郡国従事ぶぐんこくじゅうじ

【1名・100石・-】

後漢ごかん=○・=?・しょく=×・=×]

郡の文書の発給と不法行為の摘発を行います。


典郡書佐てんぐんしょさ假佐かさ

【1名・-・-】

後漢ごかん=○・=?・しょく=?・=×]


郡の文書を取り仕切ります。



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牧(州牧)

牧(州牧)設置の経緯

中平ちゅうへい5年(188年)、霊帝れいてい太常たいじょう劉焉りゅうえんの建議を受け、一部の州に刺史しし)の刺史しし州刺史しゅうしし)の刺史しし州刺史しゅうししに代わってぼく州牧しゅうぼく)を設置しました。


続漢書ぞくかんじょ百官志ひゃっかんし劉昭りゅうしょう注は、

劉焉りゅうえんは自分の野心のために霊帝れいてい牧伯ぼくはく(州の長官)を重視することをすすめ、群雄が割拠する状態をまねきました。かん滅亡の原因はぼく州牧しゅうぼく)の設置にあります」

いています。


ですが、実際に劉焉りゅうえんが建議した内容は、

刺史しし)の刺史しし州刺史しゅうしし)の刺史しし州刺史しゅうしし太守たいしゅ賄賂わいろで官職について民をしいたげ、反乱をまねいております。清廉せいれんで評判の高い重臣を選んで州の長官とし、国内を鎮定ちんていすべきです」

というもので「もっと人選を厳しくしましょう」という点に主眼があるように思えます。


ですがその結果、太常たいじょう劉焉りゅうえん太僕たいぼく黄琬こうえん宗正そうせい劉虞りゅうぐの3人が選出され、元の官秩かんちつ(中二千石)のままぼく州牧しゅうぼく)に就任します。

つまりこれは、九卿きゅうけいから官秩かんちつ:六百石の刺史ししに転出させるのは都合が悪かったため、光武帝こうぶていが廃止した官秩かんちつ:二千石のぼく州牧しゅうぼく)を復活させたのだと考えることができます。

職務

刺史ししとの大きな違いはその官位・官秩かんちつと、ぼく州牧しゅうぼく)に任命されると「同時に監軍使者かんぐんししゃの権限を得る」ということです。


監軍使者かんぐんししゃとは「征討軍を構成する全将兵の監察を行う天子派遣の監軍」のことで、民政に加え軍事においても監察権を得たことで、ぼく州牧しゅうぼく)の権限が増大し、これにともなって次第に行政権を行使するようになりました。


ですが、このぼく州牧しゅうぼく)の職務・権限については現在でも定説はなく、意見が分かれているところです。

基本情報

詳細が不明の箇所は空白にしています。

  後漢ごかん しょく
定員 各1人 各1人 各1人 各1人
秩石
品秩
二千石      
印綬 銀印青綬      

牧(州牧)の属官

ぼく州牧しゅうぼく)の属官は、基本的に刺史しし)の刺史しし州刺史しゅうしし)の刺史しし州刺史しゅうししと同じと考えられます。また、刺史しし)の刺史しし州刺史しゅうしし)の刺史しし州刺史しゅうししと同様に州ごとの実態に応じて独自の属官が置かれました。


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刺史(州刺史・部刺史)・牧の属官一覧表(三国)

以下は「ちくま学芸文庫『正史 三国志8』三国官職表」を基に作成した「三国時代の属官一覧表」です。

詳細が不明の箇所は空白にしていますが、他の史料で情報を見つけ次第随時追記します。

官職名下の数字は定員です。

官職名 秩石 備考
品秩
ぼく
(1)
二千石
  • 上記「牧(州牧)」の章を参照。
刺史しし
(1)
六百石
  • 州の監察官。
三品
属官 従事史仮佐じゅうじしかさ  
属官 別駕従事べつがじゅうじ
1
 
属官 功曹従事こうそうじゅうじ
1
 
属官 簿曹従事ぼそうじゅうじ
1
 
属官 兵曹従事へいそうじゅうじ
1
 
属官 部郡国従事ぶぐんこくじゅうじ
1
  • 州内の郡国ごとに1名。
属官 文学従事ぶんがくじゅうじ
1
 
属官 武猛従事ぶもうじゅうじ
1
 
属官 主簿しゅぼ
 
属官 門亭長諸曹書佐もんていちょうしょそうしょさ
 
属官 計吏けいり
 

官職名 秩石 備考
品秩
ぼく
(1)
二千石
  • 上記「牧(州牧)」の章を参照。
刺史しし
(1)
六百石
  • 州の監察官。
三品
属官 治中従事ちちゅうじゅうじ
1
 
属官 別駕従事べつがじゅうじ
1
 
属官 功曹従事こうそうじゅうじ
1
 
属官 議曹従事ぎそうじゅうじ
1
 
属官 勧学従事かんがくじゅうじ
1
 
属官 典学従事てんがくじゅうじ
1
 
属官 部郡従事ぶぐんじゅうじ
1
  • 州内の郡国ごとに1名。
属官 督軍従事とくぐんじゅうじ
1
 
属官 従事祭酒じゅうじさいしゅ
 
属官 従事じゅうじ
 
属官 前後左右部司馬ぜんごさゆうぶしば
 
属官 主簿しゅぼ
 
属官 書佐しょさ
 

官職名 秩石 備考
品秩
ぼく
(1)
二千石
  • 上記「牧(州牧)」の章を参照。
刺史しし
(1)
六百石
  • 州の監察官。
三品
属官 部郡従事ぶぐんじゅうじ
1
  • 州内の郡国ごとに1名。
属官 師友従事しゆうじゅうじ
1
 
その他不明
大公平だいこうへい
(1)
  • 州内の人物を評価する。
  • 魏の大中正だいちゅうせいにあたる。
他の官職についてはこちら

【後漢・三国時代の官職】目次