王允おういんに献上された絶世の美女・貂蝉ちょうせんに近づく呂布りょふ。ついに呂布りょふ貂蝉ちょうせんの密会現場を目撃した董卓とうたくは、呂布りょふげきを投げつけますが…。

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董卓の苦悩

董卓の苦悩

画像出典元:珍蔵懐旧版四大名著連環画「三国演義」


タカオタカオ

前回は、呂布りょふ貂蝉ちょうせんの密会を目撃した董卓とうたくが、呂布りょふ方天画戟ほうてんがげきを投げつけたところまででしたよね。

マリコマリコ

うん。それで呂布りょふさんを追いかける董卓とうたくさんが、誰かとぶつかったんですよね。

王先生王先生

そうですね。前回は、「はたしてこの男は何者なのでしょうか?」というところで終わりました。

ご確認

この記事は三国志演義さんごくしえんぎに基づいてお話ししています。この、王允おういん貂蝉ちょうせんの「連環れんかんはかりごと」については、三国志演義さんごくしえんぎの創作になります。

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李儒の助言


王先生王先生

では、今回のお話を始めましょう。


前方から駆けてきた男は、董卓とうたくの知恵袋・李儒りじゅでした。

李儒りじゅは無様に尻餅をついた董卓とうたくを助け起こすと、「何しに来たっ!?」と怒鳴りつける董卓とうたくに言いました。


先程さきほどたまたま御門まで参りましたところ、呂布りょふが『太師たいし董卓とうたく)さまに殺されるっ!』と言いながら走って来るのに出くわしたのです。

何事なにごとかとうかがいに参ったところ、とんだ粗相そそうをつかまつりました。どうか、ご無礼をお許しください」



タカオタカオ

あれっ!?王允おういんじゃないのか…。

王先生王先生

そうですね、李儒りじゅです(笑)


董卓とうたくが「あの謀反人めが、わしの女に手を出しておったのだっ!」と憤慨ふんがいして答えると、李儒りじゅは「絶纓ぜつえいの会」を引き合いに出し、


呂布りょふ貂蝉ちょうせんをお与えになれば、必ずや呂布りょふは、死をもいとわず忠義を尽くすようになるでしょう」


と進言します。

すると董卓とうたくは少し考え込んで、「なるほど、お主の言うことはもっともだ。よく考えてみるとしよう」と答えました。



タカオタカオ

あ〜っ!やっぱり李儒りじゅ厄介やっかいだな。

マリコマリコ

本当に貂蝉ちょうせんさんを呂布りょふさんに与えたら、この計略は失敗に終わっちゃうっ!

タカオタカオ

…だね。

マリコマリコ

ところで、「絶纓ぜつえいの会」ってどんなお話ですか?

王先生王先生

それでは「絶纓ぜつえいの会」について、簡単にお話しておきましょう。


昔、荘王そうおうが諸侯をまねいた宴会の席に、お気に入りのめかけを出席させました。

このめかけが諸侯に酒をすすめて回っていた時のこと、にわかに風が吹き込んで来たかと思うと灯火ともしびを残らず消し去って、部屋は真っ暗になってしまいました。

するとこの時、なんとこの暗闇を良いことに、1人の男が荘王そうおうめかけに抱きついてきたのです。

めかけ咄嗟とっさに機転を利かせてその男のかんむりえいひも)を引きちぎり、荘王そうおうにこのことをうったえました。

ですが荘王そうおうは、「酒の上でのこと。怒るでない」と言うと、全員のえいひも)を切らせ、金色塗りのお盆に集めた上で、灯火ともしびをつけさせました。

そのお陰で、結局荘王そうおうめかけに抱きついた者が誰であるかは分からないまま宴会は終わり、男は大勢の前で恥をかくことも、罰せられることもありませんでした。


それから数年後、荘王そうおうしんとのいくさで敵兵に取り囲まれた時、味方の大将がたった1人で斬り込んできて、荘王そうおうを救い出しました。

深手を負ったその男は、


「私の名は蒋雄しょうゆう…。いつぞやのうたげの会にて、おう寵姫ちょうきにいたずらをした者にございます…」


と言い、満足げに息を引き取ります。

のちに人々は、この話を「絶纓ぜつえいの会」と呼ぶようになりました。



タカオタカオ

寵姫ちょうきは罰して欲しかったから怒っただろうけど、荘王そうおうはそんなこと気にしなかった訳か…。

マリコマリコ

蒋雄しょうゆうさんは命がけで恩を返したんだ…。忠臣だね。

タカオタカオ

そもそも忠臣は、寵姫ちょうきにいたずらなんてしないだろ(笑)

王先生王先生

荘王そうおう気遣きづかいが、忠臣をつくりだしたということですねっ!

董卓の苦悩


王先生王先生

さて董卓とうたくは、李儒りじゅの言う通り貂蝉ちょうせん呂布りょふに与えることにします。

マリコマリコ

え〜っ!それは…。

タカオタカオ

やっぱりマズいことになったな…。しかし董卓とうたくって意外と素直だね。


李儒りじゅが退出すると、董卓とうたくは奥座敷に貂蝉ちょうせんを呼んで事情を聞きました。

すると貂蝉ちょうせんは、


「私が裏庭で花を見ていたところ、突然呂布りょふがやって来ましたので、驚いてその場をはずそうとしたのですが、呂布りょふは、『俺は太師たいし董卓とうたく)さまの息子だ。何を逃げることがあるっ!』と言って、ほこを手に追ってまいりました。

そこで私は、呂布りょふに身をけがされるのではないかと思い、池に身を投げて自害しようとしたのですけれど、抱きとめられてしまったのです。

太師たいし董卓とうたく)さまがお越しにならなければ、今頃どうなっていたか分かりませぬ…」


と、涙を流しながら董卓とうたくに訴えます。それを聞いた董卓とうたくはしばらく考え込んでいましたが、


「お前を呂布りょふにやろうと思うが、どうじゃ…?」


と、気まずそうに小さな声で言いました。すると貂蝉ちょうせん一際ひときわ大きな悲鳴をあげて、


とうといお方にお仕えしましたこの身を、あんな乱暴者にくだされようとなさるとは…っ!」


と叫び、壁に掛けられた宝剣を抜いて首に当て、自害しようとします。

驚いた董卓とうたくあわてて宝剣を奪い取り、貂蝉ちょうせんを抱きしめて、「今のは冗談だっ!お前を手放したりするものかっ!」と、必死に取りつくろいました。



マリコマリコ

董卓とうたくさんも本気で貂蝉ちょうせんさんが好きなんだね…。

タカオタカオ

どうかなぁ? 李儒りじゅに何か言われれば、きっとまた心変わりするよ(笑)

王先生王先生

かもしれませんね。ですが貂蝉ちょうせんは、その李儒りじゅ董卓とうたくの仲をくことも忘れません。


董卓とうたくの腕の中で、貂蝉ちょうせんはまた言いました。


「これはきっと李儒りじゅたくらみです…。

あいつは呂布りょふと仲が良いものだから『私を呂布りょふに与えよ』などと申したのです。このままでは、私はいつか呂布りょふけがされてしまうでしょう。

そうなれば、私は生きてはいられませんわ…」


すると董卓とうたくは、


「心配いらんっ!お前を郿塢びうに連れて行こう。郿塢びうで楽しく暮らすのだっ!」


と、貂蝉ちょうせんに約束しました。



マリコマリコ

すごい…。これで董卓とうたくさんは、李儒りじゅさんの言うことを信用しなくなったね。

タカオタカオ

美女が国を傾かせるって本当だねっ!その気になれば国1つ滅ぼせるよ!(笑)

王先生王先生

これはあくまでも、国を救うための計略ですからねっ!(笑)


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王允との再会

王允との再会

画像出典元:珍蔵懐旧版四大名著連環画「三国演義」

貂蝉を郿塢に移す


王先生王先生

次の日、何も知らない李儒りじゅ董卓とうたくのところにやってきます。


「今日は吉日でございます。貂蝉ちょうせん呂布りょふにおつかわしになるのがよろしゅうございましょう」

そう言った李儒りじゅ董卓とうたくは、


「よく考えたら、呂布りょふわしと親子のちぎりを結んでおるのだから、わしの女をくれてやるのは良くない。罪は問わぬゆえ、お前は呂布りょふをよくなだめておいてくれ」


と言いました。

驚いた李儒りじゅあわてて考え直すように訴えますが、董卓とうたくは、


「お前は自分の妻を呂布りょふにやれるのかっ!?貂蝉ちょうせんのことは2度というな、もし言えば死罪だぞっ!」


と言って李儒りじゅを退出させると、その日のうちに郿塢びうに帰る命令を出し、百官に見送らせました。

この時、董卓とうたくを見送る列の中に呂布りょふを見つけた貂蝉ちょうせんは、顔を隠して泣き悲しむ姿を見せました。



タカオタカオ

貂蝉ちょうせん呂布りょふに与えられるのも、呂布りょふが処刑されるのも回避できたね。

マリコマリコ

でもこれからどうなるんだろう?これからは呂布りょふさんと会えないわけでしょう?

王先生王先生

そうですね。もう貂蝉ちょうせん呂布りょふに会うことはできません。

王允との再会


王先生王先生

さて、董卓とうたくを見送った呂布りょふに声をかける者がいました。


温侯おんこう呂布りょふ)どのは何故なにゆえ太師たいし董卓とうたく)に従われず、こんなところでなげいておられるのですかな?」


呂布りょふが振り返ると、声の主は司徒しと王允おういんでした。



タカオタカオ

王允おういんっ!

マリコマリコ

そうだ、王允おういんさんがいたっ!



王允おういんはここしばらく体調がすぐれず、出仕(出勤)していなかったのですが、董卓とうたくの見送りのために出てきたのでした。

「他でもない、娘御むすめごのことにございます」と答える呂布りょふ王允おういんは、


「あれからかなりつというのに、まだ貂蝉ちょうせんをおつかわしになっておられぬのですかっ!?」


大袈裟おおげさに驚いて見せます。

すると呂布りょふは、


「あの老いぼれめが、とっくに自分のものにしおったのだっ!」


と、口惜くちおしそうにき捨てます。

呂布りょふからこれまでの経緯いきさつを聞いた王允おういんは「これからのことを相談しましょう」と、呂布りょふを屋敷にまねきました。



タカオタカオ

良い時に現れたね、王允おういん

マリコマリコ

うんうん。もう呂布りょふさんは不満で爆発しそうですもんねっ!

王先生王先生

そうですね。「連環れんかんはかりごと」も、いよいよ佳境かきょうです。

呂布の決意


王先生王先生

屋敷に着いた王允おういん呂布りょふと部屋にもり、人を遠ざけました。


王允おういん呂布りょふに酒をすすめると、呂布りょふはもう1度、鳳儀亭ほうぎていでの出来事をことこまかに話始めます。


「つまりこういうことですな?

太師たいし董卓とうたく)はわしの娘を姦淫かんいんし、将軍しょうぐん呂布りょふ)の妻を奪ったと…。

これではわし将軍しょうぐん呂布りょふ)も、天下の笑いものじゃ。

わしのような老いぼれはともかく、将軍しょうぐん呂布りょふ)ほどの英雄までもが、このような恥辱をこうむられようとは…」


うんうんとうなずきながら聞いていた王允おういんが口を開くと、その言葉も終わらぬうちに呂布りょふは机を叩いて大声で叫び声をあげ、


必ずやあの老いぼれ(董卓とうたく)を殺し、この恥をすすがんっ!」


と誓いました。



タカオタカオ

おおっ、やったっ!

マリコマリコ

ついに…。


王允おういんあわてて呂布りょふの口に手を当て、「滅多めったなことをもうされますな」と呂布りょふをなだめますが、呂布りょふの決心は変わりません。


「ただ1つ気がかりなのは、俺はあの老いぼれ(董卓とうたく)と親子の間柄。人のうわさが恐ろしい…」


呂布りょふのこの言葉を聞いた王允おういんは内心ほくそ笑み、


将軍しょうぐん呂布りょふ)の名字はりょ太師たいし董卓とうたく)の名字はとうではありませぬか。ほこを投げつけた時に、太師たいし董卓とうたく)に親子の情があったと思われますか?」


呂布りょふの背中を押します。

すると呂布りょふは、


司徒しと王允おういん)どののお言葉がなければ、俺は大間違いをしでかすところであった」


と大きくうなずきました。

いよいよ呂布りょふの腹が決まったと見て取った王允おういんは、威儀いぎを正して呂布りょふに語りかけます。


将軍しょうぐん呂布りょふ)が漢室かんしつを守ろうとするならば、将軍しょうぐん呂布りょふ)はまことの忠臣として青史せいし(歴史)に名を残し、百代ののちまでのほまれとなるでしょう。

ですがもし、将軍しょうぐん呂布りょふ)が董卓とうたくを助けるならば、その悪名を万年も残すことになりますぞっ!」


この王允おういんの言葉を聞いた呂布りょふは座を下りてお辞儀じぎをし、


「確かに心に決めましたっ!司徒しと王允おういん)どの、この上はお疑いくださるなっ!」


と言い、太刀たちを抜いて自分のひじを刺し、血をしたたらせて誓いを立てました。

これを見た王允おういんひざまづいて礼を言い、


漢朝かんちょうの祭りを絶やさぬのは、将軍しょうぐん呂布りょふ)のお陰です。決して他人にらされますな。いざという時の計略は、こちらからお知らせいたす」


と言って呂布りょふと別れました。



タカオタカオ

完璧だね、王允おういん

マリコマリコ

やった〜っ!これで貂蝉ちょうせんさんもむくわれますねっ!

王先生王先生

まだ董卓とうたくの暗殺が成功した訳ではありませんよ(笑)


鳳儀亭ほうぎていでの密会を目撃して激怒する董卓とうたくに、李儒りじゅは「いっそ貂蝉ちょうせんを与えてしまえば、呂布りょふは忠義を尽くすようになるでしょう」と進言します。

この進言を受け入れ、1度は呂布りょふ貂蝉ちょうせんを与えようと考えた董卓とうたくですが、貂蝉ちょうせんの言葉にほだされて、結局貂蝉ちょうせんを手放すことはありませんでした。


そんな時、董卓とうたくへの怒りも限界に達しようとしている呂布りょふの前に、王允おういんが現れます。

そしてついに呂布りょふは、王允おういん董卓とうたくへの不満をぶちまけ、董卓とうたくを殺害することを決意しました。



王先生王先生

次回はいよいよ董卓とうたく暗殺が実行に移されます。

次回

 【033】連環の計④|董卓の最期

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