王允に献上された絶世の美女・貂蝉に近づく呂布。ついに呂布と貂蝉の密会現場を目撃した董卓は、呂布に戟を投げつけますが…。
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董卓の苦悩
画像出典元:珍蔵懐旧版四大名著連環画「三国演義」
前回は、呂布と貂蝉の密会を目撃した董卓が、呂布に方天画戟を投げつけたところまででしたよね。
うん。それで呂布さんを追いかける董卓さんが、誰かとぶつかったんですよね。
そうですね。前回は、「はたしてこの男は何者なのでしょうか?」というところで終わりました。
ご確認
この記事は『三国志演義』に基づいてお話ししています。この、王允と貂蝉の「連環の計」については、『三国志演義』の創作になります。
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李儒の助言
では、今回のお話を始めましょう。
前方から駆けてきた男は、董卓の知恵袋・李儒でした。
李儒は無様に尻餅をついた董卓を助け起こすと、「何しに来たっ!?」と怒鳴りつける董卓に言いました。
「先程たまたま御門まで参りましたところ、呂布が『太師(董卓)さまに殺されるっ!』と言いながら走って来るのに出くわしたのです。
何事かと伺いに参ったところ、とんだ粗相をつかまつりました。どうか、ご無礼をお許しください」
あれっ!?王允じゃないのか…。
そうですね、李儒です(笑)
董卓が「あの謀反人めが、儂の女に手を出しておったのだっ!」と憤慨して答えると、李儒は「絶纓の会」を引き合いに出し、
「呂布に貂蝉をお与えになれば、必ずや呂布は、死をも厭わず忠義を尽くすようになるでしょう」
と進言します。
すると董卓は少し考え込んで、「なるほど、お主の言うことはもっともだ。よく考えてみるとしよう」と答えました。
あ〜っ!やっぱり李儒は厄介だな。
本当に貂蝉さんを呂布さんに与えたら、この計略は失敗に終わっちゃうっ!
…だね。
ところで、「絶纓の会」ってどんなお話ですか?
それでは「絶纓の会」について、簡単にお話しておきましょう。
昔、楚の荘王が諸侯を招いた宴会の席に、お気に入りの妾を出席させました。
この妾が諸侯に酒をすすめて回っていた時のこと、にわかに風が吹き込んで来たかと思うと灯火を残らず消し去って、部屋は真っ暗になってしまいました。
するとこの時、なんとこの暗闇を良いことに、1人の男が荘王の妾に抱きついてきたのです。
妾は咄嗟に機転を利かせてその男の冠の纓(紐)を引きちぎり、荘王にこのことを訴えました。
ですが荘王は、「酒の上でのこと。怒るでない」と言うと、全員の纓(紐)を切らせ、金色塗りのお盆に集めた上で、灯火をつけさせました。
そのお陰で、結局荘王の妾に抱きついた者が誰であるかは分からないまま宴会は終わり、男は大勢の前で恥をかくことも、罰せられることもありませんでした。
それから数年後、荘王が秦との戦で敵兵に取り囲まれた時、味方の大将がたった1人で斬り込んできて、荘王を救い出しました。
深手を負ったその男は、
「私の名は蒋雄…。いつぞやの宴の会にて、王の寵姫にいたずらをした者にございます…」
と言い、満足げに息を引き取ります。
後に人々は、この話を「絶纓の会」と呼ぶようになりました。
寵姫は罰して欲しかったから怒っただろうけど、荘王はそんなこと気にしなかった訳か…。
蒋雄さんは命がけで恩を返したんだ…。忠臣だね。
そもそも忠臣は、寵姫にいたずらなんてしないだろ(笑)
荘王の気遣いが、忠臣をつくりだしたということですねっ!
董卓の苦悩
さて董卓は、李儒の言う通り貂蝉を呂布に与えることにします。
え〜っ!それは…。
やっぱりマズいことになったな…。しかし董卓って意外と素直だね。
李儒が退出すると、董卓は奥座敷に貂蝉を呼んで事情を聞きました。
すると貂蝉は、
「私が裏庭で花を見ていたところ、突然呂布がやって来ましたので、驚いてその場をはずそうとしたのですが、呂布は、『俺は太師(董卓)さまの息子だ。何を逃げることがあるっ!』と言って、矛を手に追ってまいりました。
そこで私は、呂布に身を穢されるのではないかと思い、池に身を投げて自害しようとしたのですけれど、抱きとめられてしまったのです。
太師(董卓)さまがお越しにならなければ、今頃どうなっていたか分かりませぬ…」
と、涙を流しながら董卓に訴えます。それを聞いた董卓はしばらく考え込んでいましたが、
「お前を呂布にやろうと思うが、どうじゃ…?」
と、気まずそうに小さな声で言いました。すると貂蝉は一際大きな悲鳴をあげて、
「貴いお方にお仕えしましたこの身を、あんな乱暴者にくだされようとなさるとは…っ!」
と叫び、壁に掛けられた宝剣を抜いて首に当て、自害しようとします。
驚いた董卓は慌てて宝剣を奪い取り、貂蝉を抱きしめて、「今のは冗談だっ!お前を手放したりするものかっ!」と、必死に取り繕いました。
董卓さんも本気で貂蝉さんが好きなんだね…。
どうかなぁ? 李儒に何か言われれば、きっとまた心変わりするよ(笑)
かもしれませんね。ですが貂蝉は、その李儒と董卓の仲を裂くことも忘れません。
董卓の腕の中で、貂蝉はまた言いました。
「これはきっと李儒の企みです…。
あいつは呂布と仲が良いものだから『私を呂布に与えよ』などと申したのです。このままでは、私はいつか呂布に穢されてしまうでしょう。
そうなれば、私は生きてはいられませんわ…」
すると董卓は、
「心配いらんっ!お前を郿塢に連れて行こう。郿塢で楽しく暮らすのだっ!」
と、貂蝉に約束しました。
すごい…。これで董卓さんは、李儒さんの言うことを信用しなくなったね。
美女が国を傾かせるって本当だねっ!その気になれば国1つ滅ぼせるよ!(笑)
これはあくまでも、国を救うための計略ですからねっ!(笑)
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王允との再会
画像出典元:珍蔵懐旧版四大名著連環画「三国演義」
貂蝉を郿塢に移す
次の日、何も知らない李儒が董卓のところにやってきます。
「今日は吉日でございます。貂蝉を呂布にお遣わしになるのがよろしゅうございましょう」
そう言った李儒に董卓は、
「よく考えたら、呂布は儂と親子の契りを結んでおるのだから、儂の女をくれてやるのは良くない。罪は問わぬゆえ、お前は呂布をよく宥めておいてくれ」
と言いました。
驚いた李儒は慌てて考え直すように訴えますが、董卓は、
「お前は自分の妻を呂布にやれるのかっ!?貂蝉のことは2度というな、もし言えば死罪だぞっ!」
と言って李儒を退出させると、その日のうちに郿塢に帰る命令を出し、百官に見送らせました。
この時、董卓を見送る列の中に呂布を見つけた貂蝉は、顔を隠して泣き悲しむ姿を見せました。
貂蝉が呂布に与えられるのも、呂布が処刑されるのも回避できたね。
でもこれからどうなるんだろう?これからは呂布さんと会えないわけでしょう?
そうですね。もう貂蝉は呂布に会うことはできません。
王允との再会
さて、董卓を見送った呂布に声をかける者がいました。
「温侯(呂布)どのは何故太師(董卓)に従われず、こんなところで嘆いておられるのですかな?」
呂布が振り返ると、声の主は司徒・王允でした。
王允っ!
そうだ、王允さんがいたっ!
王允はここしばらく体調がすぐれず、出仕(出勤)していなかったのですが、董卓の見送りのために出てきたのでした。
「他でもない、娘御のことにございます」と答える呂布に王允は、
「あれからかなり経つというのに、まだ貂蝉をお遣わしになっておられぬのですかっ!?」
と大袈裟に驚いて見せます。
すると呂布は、
「あの老いぼれめが、とっくに自分のものにしおったのだっ!」
と、口惜しそうに吐き捨てます。
呂布からこれまでの経緯を聞いた王允は「これからのことを相談しましょう」と、呂布を屋敷に招きました。
良い時に現れたね、王允。
うんうん。もう呂布さんは不満で爆発しそうですもんねっ!
そうですね。「連環の計」も、いよいよ佳境です。
呂布の決意
屋敷に着いた王允は呂布と部屋に籠もり、人を遠ざけました。
王允が呂布に酒をすすめると、呂布はもう1度、鳳儀亭での出来事をこと細かに話始めます。
「つまりこういうことですな?
太師(董卓)は儂の娘を姦淫し、将軍(呂布)の妻を奪ったと…。
これでは儂も将軍(呂布)も、天下の笑いものじゃ。
儂のような老いぼれはともかく、将軍(呂布)ほどの英雄までもが、このような恥辱を被られようとは…」
うんうんと頷きながら聞いていた王允が口を開くと、その言葉も終わらぬうちに呂布は机を叩いて大声で叫び声をあげ、
「必ずやあの老いぼれ(董卓)を殺し、この恥を雪がんっ!」
と誓いました。
おおっ、やったっ!
ついに…。
王允は慌てて呂布の口に手を当て、「滅多なことをもうされますな」と呂布をなだめますが、呂布の決心は変わりません。
「ただ1つ気がかりなのは、俺はあの老いぼれ(董卓)と親子の間柄。人の噂が恐ろしい…」
呂布のこの言葉を聞いた王允は内心ほくそ笑み、
「将軍(呂布)の名字は呂、太師(董卓)の名字は董ではありませぬか。矛を投げつけた時に、太師(董卓)に親子の情があったと思われますか?」
と呂布の背中を押します。
すると呂布は、
「司徒(王允)どののお言葉がなければ、俺は大間違いをしでかすところであった」
と大きく頷きました。
いよいよ呂布の腹が決まったと見て取った王允は、威儀を正して呂布に語りかけます。
「将軍(呂布)が漢室を守ろうとするならば、将軍(呂布)は誠の忠臣として青史(歴史)に名を残し、百代の後までの誉れとなるでしょう。
ですがもし、将軍(呂布)が董卓を助けるならば、その悪名を万年も残すことになりますぞっ!」
この王允の言葉を聞いた呂布は座を下りてお辞儀をし、
「確かに心に決めましたっ!司徒(王允)どの、この上はお疑いくださるなっ!」
と言い、太刀を抜いて自分の肘を刺し、血をしたたらせて誓いを立てました。
これを見た王允は跪いて礼を言い、
「漢朝の祭りを絶やさぬのは、将軍(呂布)のお陰です。決して他人に漏らされますな。いざという時の計略は、こちらからお知らせいたす」
と言って呂布と別れました。
完璧だね、王允。
やった〜っ!これで貂蝉さんも報われますねっ!
まだ董卓の暗殺が成功した訳ではありませんよ(笑)
鳳儀亭での密会を目撃して激怒する董卓に、李儒は「いっそ貂蝉を与えてしまえば、呂布は忠義を尽くすようになるでしょう」と進言します。
この進言を受け入れ、1度は呂布に貂蝉を与えようと考えた董卓ですが、貂蝉の言葉に絆されて、結局貂蝉を手放すことはありませんでした。
そんな時、董卓への怒りも限界に達しようとしている呂布の前に、王允が現れます。
そしてついに呂布は、王允に董卓への不満をぶちまけ、董卓を殺害することを決意しました。
次回はいよいよ董卓暗殺が実行に移されます。