国の危機に心を痛める王允の姿に同情する歌い女・貂蝉。絶世の美女である貂蝉を使って董卓を殺害する王允の「連環の計」が、ついに実行に移されます。
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呂布に貂蝉の輿入れを約束する
画像出典元:珍蔵懐旧版四大名著連環画「三国演義」
前回は、貂蝉が王允の計略に協力することを承知したところまででしたよね。
うまく行くかなぁ?失敗したら殺されちゃうよね…。
そうですね。
今回は、ついに王允の「連環の計」が実行に移されます。
ご確認
この記事は『三国志演義』に基づいてお話ししています。この、王允と貂蝉の「連環の計」については、『三国志演義』の創作になります。
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連環の計とは
ちょっと良いですか?
王允さんの計略って、なんで「連環の計」って言うんですか? 連環…って?
確かに。これって「美人の計」だよね。なんで「連環」って言うんだろう?
良い質問ですね。
「連環」とは、「輪を連ねること。鎖」を意味します。
「連環の計」には、
- 物事を結びつける計略
- 連続して複数の計略を用いることで目的を達成しようとする計略
の2つの解釈がありますが、今回の場合は、
- 女性を用いて目的を達成する「美人の計」
- 敵同士を仲違いさせる「離間の計」
の2つの計略を連続して用いることで目的を達成しようとする、後者の例になります。
なるほどっ!
前から気になってたけど、分からないままだったんだよね。
確かにややこしいですよね。
呂布を誘い出す
では、今回のお話を始めましょう。
王允はまず、たくさんの真珠をはめ込んだ黄金の冠をつくらせ、こっそりと呂布に贈ります。すると呂布は、大喜びでお礼を言いに王允の屋敷を訪ねました。
呂布が来ると、王允は門まで出迎えて奥座敷に迎え入れ、上座に座らせます。
そして「なぜ自分のような者に、朝廷の大臣である王允どのが贈り物をくだされたのか」と尋ねる呂布に、王允は言いました。
「今、天下に英雄と呼べるお人は、将軍(呂布)だけでありましょう。私は将軍(呂布)の大才に敬意を払ったのです」
呂布がまんざらでもない表情をしているのを見た王允は、さらに董卓や呂布を褒め称え、呂布に酒を勧めます。
そして十分に酔いが回った頃、王允は酒宴の席に貂蝉を呼びました。
なんだか私まで緊張してきた…。
王允も心臓バクバクだろうな。
国の存亡がかかっていますからねっ!
呂布との約束
しばらくすると2人の腰元に付き添われ、美しく着飾った貂蝉が姿を現します。
「娘の貂蝉です。将軍(呂布)のことは、もう他人とは思えませんのでお目通りさせました」
と呂布に紹介すると、王允は貂蝉にお酌をするように命じます。
そして、貂蝉のお酌を受けた呂布が座につくように勧めると、貂蝉は目に媚びをたたえたまま、困ったように王允の方を振り返りました。
「将軍(呂布)は親友だ。恥ずかしがることはない。そこに座りなさい」
王允の許しを得た貂蝉は、ゆっくりと王允の脇に腰をおろします。
この時呂布は、貂蝉のあまりの あでやかさ にうっとりと見とれていました。
そしてさらに酒がすすむと、ついに王允は核心を切り出します。
「実はこの娘を将軍(呂布)のお側に差し上げたいと思っているのですが、お受けいだだけますかな?」
すると呂布は、その場にすっくと立ち上がり、
「もしそれが叶うのならば、私は王允どのに犬馬のごとくご恩をお返ししますっ!」
と、王允の申し出を快諾しました。
イチコロだねっ!(笑)
その後王允は、吉日を選んで貂蝉を輿入れさせる約束をして、呂布を帰しました。
でもまだ成功させるためには、やらなくてはいけないことがたくさんありますよね…。
そうですね。まだ1歩前進しただけにすぎません。
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董卓に貂蝉を献上する
画像出典元:珍蔵懐旧版四大名著連環画「三国演義」
董卓を屋敷に招く
さて、次に王允は、董卓にアプローチします。
呂布と貂蝉の輿入れの約束をした数日後、側に呂布がいないことを確認した王允は、董卓を屋敷に招きます。
すると董卓は「司徒どののご招待とあれば、即刻参るとしよう」と、上機嫌で承知しました。
次の日の午の刻(11時〜13時)、董卓は矛を持った鎧武者100人を引き連れてやってきます。
王允は山海の珍味で董卓をもてなすと、
「太師(董卓)どのの徳は古の伊尹・周公といえども及びません」
と、ひたすら董卓を持ち上げました。
伊尹は殷王朝の始祖・湯王の宰相で、湯王を輔けて夏の桀王を滅ぼした人物。
周公は周の武王の弟で、武王の死後、宰相として武王の子・成王を輔けて反乱を平定した人物です。
呂布って董卓の護衛じゃなかったっけ?この時は来なかったの?
来なかったみたいですね。
なんか都合の良い話だなぁ(笑)
確かに…。王允が董卓に、呂布を連れて来ないように言うのも不自然ですしね(笑)
貂蝉を献上する
さて、日も暮れて宴も たけなわ となった頃、王允は董卓を奥座敷に招きました。
奥座敷に入った董卓は、すっかり気を許して鎧武者を下がらせます。
すると王允は、「宮中の楽人たちがお供しておりませんので、恐れながら我が家に仕える歌い女をお目にかけましょう」と言って貂蝉を呼びました。
貂蝉の舞に見とれていた董卓は、舞が終わるや否や貂蝉を側近くに呼んで名を尋ね、今度は歌を所望します。
しばらくして、董卓が貂蝉の歌と舞に夢中になっているのを見た王允は、
「恐れながらこの女子を太師(董卓)さまに献上いたしたく存じますが、お受けいただけますでしょうか?」
と切り出します。
すると董卓は、「お志かたじけないが、どんなお返しをしたら良いやら…」と、大いに喜んで何度も礼を言いました。
王允は、「この女子にとっては、太師(董卓)さまのお側にお仕え出来るだけで、思いもよらぬ幸福にございます」と言い、すぐに馬車の支度をさせて、一足先に貂蝉を丞相府に送り届けました。
でもこれって、呂布さんは王允さんに怒りませんか?
もちろんそこはうまくやるでしょ(笑)
そうですね。
その後董卓は怪しむことなく席を立ち、王允は董卓を丞相府まで見送りました。
呂布が王允を問い詰める
さて、実はマリコさんが心配していた通りになるんです。
董卓を丞相府まで見送った王允が帰路につくと、赤兎馬にまたがり方天画戟を手にした呂布が、ものすごい勢いで王允を追ってきます。
王允に追いついた呂布は、馬を降りるなり王允の襟首をつかんで声を荒げて言いました。
「司徒どのっ!俺に貂蝉をくれる約束をしておきながら、今日になって太師(董卓)に贈るとは、人を馬鹿にするにも程があるっ!」
すると王允は、「まずは落ち着いてくだされ。ここではお話もできませぬゆえ、拙宅にお越し下さい」と言って呂布を屋敷に招きました。
そして、屋敷について挨拶を済ませた王允は、「将軍(呂布)はなぜこの年寄りをお咎めなさる?」と呂布に尋ねます。
すると呂布は怒りを露わにして、
「貴様が貂蝉を馬車に乗せて、丞相府に送らせたことを知らせてくれた者がいるのだ!これは一体どういうことだっ!?」
と王允に詰め寄りました。
王允のすっとぼけ具合が笑えるな(笑)
呂布さんが怒るのも当然だよっ!どう言い訳するの?王允さん。
ここが正念場ですからね。
王允は慌てるそぶりもなく、次のように話して聞かせました。
「さては将軍(呂布)、ご存知ないようですな。
昨日、太師(董卓)が殿中(御殿の中)で、『私の家を訪ねたい』とおっしゃったので、用意を整えてお待ちしていたところ、
『司徒どのには貂蝉という娘があって、(義理の)息子の奉先(呂布の字)にくれる約束と聞いたが、口約束だけでは実に心許ない。そこで儂がわざわざ頼みに来たのだが、ついでに一目見せてもらいたい』
と仰せられ、私も太師(董卓)どののお言葉を断ることもできず、貂蝉を目通りさせたのです。
すると太師(董卓)は、
『今日はちょうど吉日。儂が娘を連れて帰って、奉先(呂布の字)にやることにしよう』
とおっしゃり、貂蝉をお連れになったのです。
太師(董卓)直々のお出ましに、この年寄りがお断りすることなどできないことは、ご理解いただけましょう」
これだと董卓さんが、後で呂布さんに貂蝉さんを引き合わせることになりますね。
そうさ。でも本当は自分に貰ったのだから、董卓は呂布に渡すわけがない。そうなると呂布は…。
董卓さんが横取りしたと思うのねっ!王允さん天才っ!
いかにも董卓がやりそうなことだしね(笑)
そうですね。
その後呂布は、王允に丁重に謝罪をして帰りました。
長安に遷都して残虐性を増していく董卓を見かねた王允は、歌い女・貂蝉を使って董卓を殺害する連環の計を思いつきました。
そしてまず王允は、呂布に貂蝉を娶せる約束をした上で、董卓に貂蝉を献上します。
これにより、董卓と呂布を仲違いさせる下準備が整いました。
次回は董卓の元に送り込まれた貂蝉が、董卓と呂布の間で2人を反目させるために立ち回ります。