ニッポン放送の現役アナウンサー・箱崎みどり著『愛と欲望の三国志』(講談社現代新書)の感想とおすすめポイントをご紹介しています。
スポンサーリンク
目次
概要
著者
箱崎みどり
1986年、東京都生まれ。ニッポン放送アナウンサー。気象予報士。東京大学大学院総合文化研究科(超域文化科学専攻比較文学比較文化コース)修士課程修了。
論文
- 日中戦争期における『三国志演義』再話の特色(『比較文学・文化論集』29号)
- 日本における『三国志演義』の再話(『三國志研究』第7号)
- 近代日本における諸葛亮の評伝をめぐって(『三國志研究』第9号)
- 吉川英治『三國志』が描く母(『三國志研究』第11号)
担当番組
ニッポン放送
- 垣花正あなたとハッピー!
- テリー伊藤のフライデースクープ そこまで言うか!
- 高嶋ひでたけのあさラジ!
- 草野満代 夕暮れWONDER4
全国28局ネット
- ミュージックスクランブル
以上、著者プロフィールより引用。
出版社
- 講談社現代新書
目次
- 第一章 わたしの「三国志」ー主な出来事を追って
- 第二章 有名作家、それぞれの「三国志」
- 第三章 弥生時代から江戸時代、人々はどう読んだか
- 第四章 江戸時代、知らぬ人なし「三国志」
- 第五章 近代日本と孔明
- 第六章 日中戦争期の「三国志」ブーム
概要
『愛と欲望の三国志』。はじめてこの本の存在を知った時、そのタイトルから「三国志の英雄たちの妻」または「三国時代の女性」のような内容を想像しました。
ですが、実際に本を手に取ってみると、本の帯には日本人が大好きな「三国志」の変遷とあります。そうです。本書は「三国志」に描かれた「愛と欲望」ではなく、一言で言うと『三国志』(主に『三国志演義』)の日本史。
現在、数々の小説やマンガ、ゲームなどで日本で親しまれている「三国志」が、古くは弥生時代から現代に至るまで、わたしたち日本人にどうのように受け入れられて来たのか、先人たちが「三国志」に注いだ「愛と欲望」の変遷を知ることができる1冊です。
本書はまず、『三国志演義』のあらすじや著者自らの三国志体験、好きな場面や好きな人物などの紹介から始まります。
まだ「三国志」を読んだことがない方でも、本題に入るまでに最低限必要な情報を押さえておくことができる上、読み手に語りかけるようなやさしい文体ですので、すんなりと頭に入ってきます。
また、本題の「三国志の日本史」の部分は、膨大な史料に裏打ちされた読み応えのある内容ですので、三国志関連の書籍は一通り読んできたという「三国志」好きの方でも十分に楽しめる内容と言えるでしょう。
『三国志演義』とは
『三国志演義』とは、後漢末期から魏・呉・蜀の三国が鼎立する三国時代にかけての歴史(正史『三国志』)をもとに、民間伝承や創作を交えて著された中国の大衆歴史小説のことです。
現在日本で出版されている三国志小説(完訳本を除く)の多くは、この『三国志演義』をベースに、それぞれの作家が独自の創作を加えた作品となります。
スポンサーリンク
感想・「三国志」を通して見る日本人
多彩なパロディ作品
奈良時代から江戸時代初頭にかけて一部の知識人の間で読まれていた『三国志』は、『三国志演義』の完訳本である『通俗三国志』、さらには『通俗三国志』に挿絵をつけた『絵本通俗三国志』の大ヒットによって、民間でも読まれるようになりました。
そして彼らは、ただ「三国志」として読むだけでなく、日本のヒーローたちとの共演や男女逆転もの、さらには春画まで、多彩なパロディ作品を生み出します。
現在、『一騎当千』や『恋姫†無双』など「三国志」の登場人物を女性化させた作品や、『機動戦士ガンダム』のモビルスーツと「三国志」の登場人物が一体化した『SDガンダム三国伝』など、大胆なアレンジを加えた三国志関連作品が数多くありますが、「まさか江戸時代から同様のアレンジを加えた作品があったとはっ!」と驚かされました。
この日本における「三国志」の多様性は、とんかつやラーメン、カレーライスなど、海外から入ってきた料理をそのまま食べるのではなく、自分たち好みにアレンジを加えて日本料理の1ジャンルとして定着させてきたような、日本人の柔軟性を感じさせます。
私自身、「三国志」の登場人物の女性化やロボット化などは、どちらかと言うと邪道だと思って敬遠してきましたが、そのような考え方は狭量だったと反省せざるを得ません(笑)
日中戦争と三国志
本書の帯の内容紹介には、
第六章 日中戦争期の「三国志」ブーム
ブームの裏にあったもの〜中国への興味/従軍と「三国志」
とあります。
この章タイトルを見た時、「彼を知しり己を知しれば百戦殆うからず」と、日中戦争下で敵である中国人を理解するために『三国志演義』が利用されていたのだろうと予想しました。
ですがそうではなく、当時の人々の間では、日中戦争下でありながら「中国人を同胞として理解するため」に『三国志演義』が読まれていたと言うではありませんか。
1929年の世界恐慌以降、欧米列強は他国との貿易を厳しく制限し、本国と広大な植民地だけで経済を回す「ブロック経済」を行います。
これに、アジア諸国で唯一列強入りしていた日本が構想したのが、日本・満州国・中華民国を中軸として共存共栄するアジア経済圏・大東亜共栄圏でした。
図らずも戦争状態となった後でも、同じアジアの同胞として中国人を理解しようとしていたのかと思うと、胸が熱くなります。
スポンサーリンク
読む前に読むか?読んでから読むか?
まだ「三国志」を読んだことがない方へ
本書を購入するにあたり、箱崎みどりさんの「トークショー&サイン会」に参加させていただきました。
その時お話した方に「まだ三国志を読んだことがないのですが、三国志を読んでから読んだ方が良いですかね?」と相談されました。
同じような疑問をお持ちの方のために、
『三国志』を読む前に『愛と欲望の三国志』を読むか?『三国志』を読んでから『愛と欲望の三国志』を読むか?
についてアドバイスさせていただきます。
あなたにぴったりの『三国志』を見つけるために
結論から先に言うと、『三国志』を読む前に『愛と欲望の三国志』を読むことをお勧めします。
現在、巷にはたくさんの三国志小説があります。
最初にどの本を手に取るかは、すらすら読めて「三国志」の世界に引き込まれ「面白いっ!」となるか、なんだか難しいなと感じて挫折してしまうかの分かれ道でもあります。
何も知らずに上級者向けの作品を手にとって、挫折してしまうのは実にもったいないっ!
『愛と欲望の三国志』の第二章には、多数出版されている有名作家の「三国志」作品が、冒頭の文章と共に紹介されているほか、あなたにぴったりの『三国志』を診断!では、チャート図を進めることであなたにおすすめの「三国志」作品を見つけることもできます。
また、すでに『三国志』を読んだことがある方が、他の作家の作品はどんな感じだろうと、2作品目を選ぶ際にも重宝するでしょう。
これから初めて「三国志」を読もうという方は、本屋さんに三国志小説を買いに行く前に、第二章だけでなく「おわりに」も必ず読んで下さい。
初めて読む「三国志」作品を選ぶ上で、第二章には書かれていない著者・箱崎みどりさんの本音が書かれています。
本当に面白いのはやっぱり読んでから
『愛と欲望の三国志』の本題である「三国志の日本史」の部分は、「三国志」のお話というよりも「日本の文化史・三国志編」と言えるものですので、「三国志」を読んだことがない方でも問題なく読める内容になっています。
ですが、それぞれ具体的なエピソードを挙げて解説されていますので、もちろん元ネタの『三国志演義』を知っていた方がより楽しめます。
また一方で本書は、「三国志」をかなり読み込んだ方でも十分満足できる内容となっていますので、中には難しく感じる方もいるかもしれません。
そういった場合は、最初から完璧に理解しようとするのではなく、「へぇ〜、そんなこともあったんだ」と軽く読み流すだけでも、これから読み始める「三国志」の魅力を垣間見ることができるでしょう。
そして『三国志演義』を読み終わった後にもう一度読み返してみると、『愛と欲望の三国志』をより一層堪能できるようになっていると思います。
本書は、学生時代から現在まで三国志の研究を続けてきたという、著者・箱崎みどりさんの集大成と言える1冊ではないでしょうか。
これを、本業のアナウンサーの仕事や子育てなどと平行して書き上げたのかと思うと、驚愕してしまいます。まさに「三国志への愛と、三国志の魅力をもっと多くの方に知って欲しい」という箱崎みどりさんの愛と欲望が込められた1冊だと思います。